第六章 イザナミの呪い
第一話 手の内
「さて、言いたくないとは思うが、あの時沙穂に使った手の内を見せてもらおうか」
「今の流れは稲置の身の上話に入るんじゃないのか」
「その前に手の内を聞かないとだろう。お前、まさか術の対象者に後遺症が残る魔術を使ったんじゃないだろうな?」
「使ってねえよ」
バメイの言葉に、ばつの悪そうなランスロットは拗ねて顔ごと視線を逸らした。そのままモゴモゴと口の中で言葉を咀嚼し、意を決したようにまた向き直る。
「人形呪術だよ。俺の呪いの十八番だ」
「後遺症は?」
「ない。というか、あったら困る」
「ならいい。後で詳しく調べるが、問題が無ければ生かして帰してやる」
「あったら殺すつもりなんだな……」
バメイの言葉にランスロットは眉根を寄せるも、仕方ないと言わんばかりにため息一つで物騒な言葉を聞き流した。
会話に区切りができた頃、囲炉裏でぐつぐつと煮えた汁物もできたようで、適当によそわれた椀を差し出される。
「どうぞ、お口に合えばいいのですが」
「……もらおうか」
「おや、てっきり教義に則るのかと」
トリスタンの言葉に、バメイは僅かに顔を顰める。
「それを貫いて生きられるほどこの時代は寛容ではないだろう。お前、名前は」
「ルーカンと申します。同じ名前の騎士がおりますが、れっきとしたトリスタン卿の弟子でございます」
「未来のトリスタンか」
バメイに椀を差し出したのは、赤毛の青年だった。ルーカンと名乗った彼は、まだわずかに幼さを残していた。成年に近い年齢ではあるのだろう、鍛え上げられた体は全身を包むカソックの上からでも見て取れる。
「そういえばさっきは不問にしたそこの子供の処遇だが」
「掘り返すのは反則だろう!」
ランスロットがすかさず反論し、しばらく落ち着いてルーカンの作った汁物を食べ、その間に武槍は意識を取り戻していた。
「
バメイによって掘り返されたランスロットの蛮行について聞かれた武槍は、いつの間にかルーカンから汁物をよそった椀を受け取って唇を濡らすように啜っていた。
「……特に私が失ったもの、と言えるものも思い当たらないし、私自身に先程の戦闘から引き摺る後遺症と言えるものもないのなら特には求めないが」
「面子の問題だから、何かしらは要求した方がいい」
「ならバメイさんとそちらのキャメロット?の関係性が知りたいかな」
その言葉に一斉にバメイ、トリスタン、ルーカンの三人は押し黙る。
「何か不味いこと聞いたかな?」
「いや、隠してるわけじゃない……わけじゃないんだが……」
「その、先程までの戦闘とは比べ物にならないほどのファンタジーな話でして……」
「教え、……いや、でも……」
ヒソヒソと小声で集まって相談する様子を眺めながら、武槍の隣にはいつの間にかランスロットが移動していた。
「俺も城とあの男の関係は知らない。俺は急拵えの騎士だからな。城の内情やら何やらとはほぼ無縁だ」
小さな声で耳打ちされたのは、ランスロットもバメイと仲間の関係を知らないということである。
「というか、呪いを受けている間も意識があったのか?」
「うっすらと聞こえていたのと、年の功ってやつだね。伊達に歳をとっていないからなんとなく上下関係があるように見えただけだよ」
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