第六話 差し出すもの
「なら、何を渡す」
「私の心臓を」
バメイの言葉に男は迷うことなく答える。その様子に、男のおかげで解放されたランスロットは声を上げた。
「やめろトリスタン!それでお前が死んだらどうしようもないだろう!」
「独断専行で事を進めた責任は誰かが取る必要がある。お前にそれを支払う能力はないだろう」
トリスタンと呼ばれた壮年の男は冷たい視線でランスロットを見下ろしていた。その視線に、ランスロットは押し黙ってしまう。
「子供のために自分の命を差し出すとは、それでこそ円卓の騎士なのだろうな」
「……魔女は自分が何者か暴かれるのが嫌いであること、お忘れではないでしょう。それに貴方は我々にとって、」
「それ以上は語るな。正体を隠しているわけではないが、今言う必要はない」
バメイはそう言って手に持っていた短刀も手からこぼすように捨てた。トリスタンはその様子を見て、一つ安堵のため息を漏らす。
「まあ、そこの子供が手を出したものとお前が提示した対価は全く釣り合わないからな。今回はその誠意で手打ちにしてやる」
「寛大な措置、痛み入ります」
トリスタンのその言葉に、バメイは煩わしそうに首を鳴らして手を振り、介抱されている武槍へと歩み寄る。青年に飲まされたのは解毒剤のようなものなのか、橘顔色が明るくなり、呼吸も安定していた。
「流石に処置は早いな。この分ならしばらく寝ていれば回復するだろう」
「お褒めの言葉、光栄に存じます。ここからはお任せしても?」
「ああ、大丈夫だ」
トリスタンと共に現れた赤毛の青年は、武槍の様子を見ながらバメイに引き渡す。そのまま武槍の体を支え、沙穂が横たえられている屋内へと運び込んだ。
「そういえば、お前達が迷い家に入れたのは今更どうでもいいとして、どうしてランスロットは沙穂を狙っていた?あれの呪いは基本的に誰も知らないはずだが」
「昔、一度だけ腐敗の呪いを教えたことはありましたが、彼女がその呪いを持っていることまでは城も把握しておりません」
バメイとトリスタンは、ランスロットに注目する。当の本人は気まずそうに視線を逸らしながら、観念した様子だった。
「前の任務でヘマしたんだよ。除霊が終わった途端誰かに襲われて、気がついたら、その、稲置の呪いとかそういうのを追わなければって暗示がかかっていたというか……」
「完全に罠にハマってるな」
「私の弟子が申し訳ない……」
かつてランスロットを教えていたのはトリスタンだったのだろうか、子供を弟子と呼び、親のように申し訳なさそうな顔で再び謝罪の姿勢に入っていた。それをバメイは必要ないと止め、話をいつ切り上げるか考えた。
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