第五話 楽園の使者

「さて、お前にはどうやってこの事態の責任を取るつもりだ?魔女の心臓なら役に立つだろうなぁ」

 土気色のランスロットは起きあがろうと手をついて腕を動かそうとするが、身動きができない。先ほどまで誇っていた膂力であれば簡単にバメイを押し除けることはできるはずであるが、それができなくなっていた。

「流石はを立てただけはあるな。無関係な人間の犠牲者を出さないための行動であっさりと死にかける。魔女ってのは厄介だな」

 ランスロットの質問にバメイは答えず、からからと笑っている。近くに落ちていた短刀を拾うと、その刃をランスロットの細い首筋に沿わせる。

「そういえば、お前の呪いは面白い形をしているな。魔女の呪いっていうのは育った環境に依存するが、その呪いを得た魔女は初めて見た」

「黙れ!これ以上俺のことを語るな!」

 バメイの言葉に過敏に反応するランスロットは、腕を退けて起きあがろうと躍起になる。無理に体に力を入れたために、関節が明後日の方向を向き始めているも気にかけずがむしゃらに暴れている。

「囀りだけは立派だな」

 ランスロットの腕を掴み、背中側へとゆっくりと捻っていく。途端に抵抗する声がなくなり、やめろ、と小さな声だけが漏れるようになる。

 肩の関節を完全に破壊する姿勢に入っていたバメイの腕を、背後から更に誰かが掴んだ。

「どうかそこまでにしていただきたい」

 バメイが振り返ると、そこには一人の男がいた。今うつ伏せに押さえつけているランスロットと全く同じデザインのカソックに、両手には白い手袋、何よりも前髪を全て撫でつけたオールバックの銀髪が特徴的な壮年の男性だった。

「身内の不始末をつけに来たのか?だが、もう遅い。既にこの子供は俺の領分に手を出している」

「対価が必要であれば私が支払います。被害を受けた彼らにも救済措置を取ります。どうかその子を解放していただきたい」

 バメイが周囲を見れば、倒れ伏していた武槍を支えて何かを飲ませている青年がいる。よく見れば無造作に横たえていた沙穂は縁側まで運ばれ、毛布までかけられている。

「口先だけではないようだが、この子供のしでかしは消えない。相応の対価は支払ってもらおう」

 その言葉に、バメイの腕を掴んでいた男は焦った様子を見せた。

「どうかその子から命を取り立てることだけは、それだけは許してほしい。その子は我々にとって今失ってはならない子供だ。どうか別の手段での対価を提案させてもらいないか?」

 男のその言葉に、バメイは一つため息を吐くとランスロットを押さえつける手を避けた。そのまま押さえつけるためにのし掛けていた足も下げ、ランスロットを完全に解放する。

「なら、何を渡す」

「私の心臓を」

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