第二話 或る男の罪
沙穂とバメイはとある寺に立っていた。今回の依頼は山中で出されたはずで、依頼人は確かに山中に住んでいるとわかっているのに、何故か二人はその山の麓にある寺の前に立っている。
「……本当にここなの?」
「いや、あれは確かに間違えないはずなんだが……」
二人が特殊な方法で依頼を受けられているのは、バメイの尽力によるものだった。バメイは限りなく魔法に近い魔術を扱うために、誠密かに囁かれる程度の噂だけで依頼を本気で出している人間を選別させ、依頼を受けかつ依頼人の情報を手にいれることができた。
そのはずで、その情報を頼りにして二人は依頼人の元へ姿を表す。依頼人の住居を最初から知っている二人は、確実に依頼人に会える時間帯、場所を魔術によって自動で指定して蜃気楼のように姿を表すのだ。
「……この寺、確実に家から相当離れてるはずよね」
「そう、……だな。少なくとも依頼人は山の中腹に住んでいるはずだ」
依頼人は寺を背にした場所に住んでいる。それなのに、魔術は二人を山の麓に運んだのだ。
「依頼人について何か調べたか?」
「ええ。
もしこの情報が真実なら、相当に厄介な人間だとは思うわ」
スカートのひだに隠れたポケットから、手のひらほどの手帳を取り出し中身を改める。その情報を読み上げながら、沙穂はちらりと寺の方へと視線を投げた。
ちょうど同時に、寺の中から住職らしき人物と年若い僧侶が現れる。雪の降りしきる季節であるのに裸足に草鞋姿であり、爪先が霜焼けで赤くなっている。見ていて寒さで凍えそうな姿に、沙穂は僅かに眉を顰めた。
「お待たせしてしまいましたね。お二人のことは存じ上げております。これ、先生の元まで案内しなさい」
そうして住職に背中を軽く叩かれた年若い僧侶は、頭を下げて案内を申し出た。
「武槍先生の元まで案内します。途中、かなり険しい道となっておりますので、お召し替えされるなら事務所の方までご案内します」
そうして年若い僧侶は沙穂を見ていた。確かにいつもと同じ生成り
不躾と労りの境のような視線に、沙穂は慣れた様子で年若い僧侶の気遣いを断ろうとした時、住職と僧侶より遥か奥の位置から雪を踏み鳴らす足音が聞こえた。
「住職、すまないがその二人は私が直接呼んだ客だ。気遣いはいらないよ」
そうして屋根雪崩を避けながら歩いて来たのは、足元まで丈のある頭巾に笠と蓑姿の男だった。時折足元を取られて体がふらりと平衡感覚を失っているが、倒れそうな気配はない。
その男は顎で結んでいた笠の紐を解くと、深く頭から被っていた頭巾も取り払う。
「お二人とも、この寒い中来てくれてありがとう。私が君達を呼んだ
現れた男の顔は、事故か事件に巻き込まれたのか。顔の半分以上が火傷跡のケロイドだった。
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