第九話 巻き込まれた子供達

 完全に家族のいなくなった敦は、一度信頼の置ける後見人を立てて成人するまで遺産を管理させることになった。一方幼馴染は父親こそ亡くしたものの母は健在であるため、二人で生活していくという。

「沙穂さん、あの、これ……」

 全てが解決し、一時姿の見えなかった沙穂がまた現れる。そこで、事態の解決に手を貸した報酬を支払うことにした。叔父であり一時期はと呼んだ敦彦に何もかも取り上げられた時に、唯一手元に残っていた生母の遺品。

 天鵞絨ビロードの箱に入った鮮やかなルビーの指輪を渡そうとすれば、その手を目の前の少女によって阻まれた。そっと箱の手の上に乗せられた手は、そのまま敦の胸元へ箱を戻したのだ。

「今回、敦様のご依頼は達成できておりません。私が敦様からご依頼されたのは、事件の真相の解明と呪いの解呪でした。しかし、事件の解明は完全には成されず、敦様の呪いも敦彦様が全て引き受けて行かれました」

「でも、伯父さんの依頼が、」

「そちらは既に報酬を頂いております」

 前に会った時とは変わって、この日の沙穂は生成りのブラウスに檜皮ひわだ色のスカート姿だった。彼女の目よりも、前に会った時よりも首元が見えなくなった原因のブラウスの襟ばかりを眺めてしまう。

「僕は、これからどうしたらいいんですか。伯父さんにだってなんにもできていなかったし、」

「貴方が敦彦様を想う必要はありません」

 キッパリと言い切り、そのまま彼女は立ち去って行った。何か声を掛けようと口を開くものの、何を言おうと彼女が振り返ることはないと、敦は口を閉じて見送った。


 敦の新たな保護者は、敦彦の両親だった。義理の祖父母は暖かく彼を迎え入れ、財産である屋敷を定期的に訪れては管理し、月に一度墓参りにも連れて行ってくれた。

「ごめんなさい、僕、伯父さんに何にもできなかった。ありがとうって言えなかった……」

 初めて二人に会った時、嗚咽を零しながらそう言ったのを覚えている。それでも、二人は彼を責めることも何もせずにただ背中をさすってくれた。

「あのね敦くん。篤彦がしたことを敦くんは肯定しちゃいけないんだよ」

 墓参りの時に思うところがあったのか、世話になっている住職の寺で両親と住職はそう言った。

「どんな理由があっても、篤彦がしたことは決して許されることじゃない。どんな理由があっても、君に手を挙げたことは悪いことだ。それを一度でも篤彦は謝罪していないだろう。

君を傷つけた理由だって、結果的に君を守れただけだ。篤彦は君を利用して姉の敵討ちをした。そこは間違えちゃいけない」

 そう言われて、ようやく沙穂の別れ際の言葉の意味を知った。何があっても敦彦の行いは許されることではないと、大人たちは敦に言わなければならなかったのだと。

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