第七話
その家には代々仕える呪術師の家系があった。当時の当主は、幼い我が子を守るため、その家から当代随一の呪術師の女性を妻として迎え入れた。
幼かったその子供は呪われていた。
誰がもたらしたかもわからないその呪いから、子供を守るため、子供の母となった女はあまりにも強すぎるその呪いを肩代わりした。しかし女は気付かなかった。その呪いが父親すら蝕んでいたことを。
結果、二人は死に、母となった女の代わりにその弟が子供を守ることとなった。
弟は姉夫婦の葬儀の後の遺言状の公開で驚愕した。姉の嫁いだ家を取り潰し、残された幼い子供を親のない子供として養護施設に入れ、残った財産は遠縁の家に全て相続させるという内容だったのだ。子供が相続する財産は一切書かれていなかった。
誰が見ても明らかな偽装された遺言状に、それをわかっていて釣り上がる口角を隠しきれていない遠縁の分家筋の人間と弁護士。その姿に弟は憤慨した。
「出ていけ!お前達の好きにはさせない!」
欲に溺れた人間を追い出し、いざ子供と向き合うと驚愕した。
姉が命をかけて守った子供は、ただ束の間の猶予ができただけだった。
この時、弟は誓った。今度こそ、姉の悲願を果たすと。それ以来、子供を屋敷から出さなくなった。呪いを肩代わりするために、名前を変えた。負の感情を媒介にして呪いを引き受けるために、子供を虐げた。性に合わない堕落した生活を送り、緩やかに体を腐らせた。
だが恨みで子供の全てが台無しにならないように、子供が夜中に屋敷を抜け出すのを黙って見ていた。
子供を虐待していると誹られれば、子供の家の立場を利用して黙らせた。子供を心配に思った子供の友人が来れば、「いずれはちゃんと子供を学校に通わせる」と約束して帰らせた。
それでも限界はやってくる。事故があった日から2年が経ち、子供は12歳になった。小学校を卒業する年になると、病気でもなく屋敷に子供を拘束することを世間は黙っていない。
同時に、男の体にも限界が来た。子供が受けるはずだった呪いによる病苦、障りを引き受け続け、もって数ヶ月の体となった。このまま子供が呪いから解放されなければ、姉と同じように焼け石に水の結果となる。
そんな時、風の噂で聞いた。「宝石一つで事件を解決する呪術専門の探偵がいる」
その噂を藁にもすがる思いで辿れば、稲置沙穂という少女に辿り着いた。褐色の謎の青年を引き連れ、彼女の方から男を訪ねたのだ。
「お初にお目にかかります。
彼女から尋ねてくれたのは渡りに船だった。沙穂という少女か、あるいはその助手をしているという青年のどちらかが男の家系を知っていたのだろう。男が名乗る前に既に家の事情や男の家系を理解していた。
「篤彦様……現在は名前を変えられていましたね。敦彦様は、此度の術はただの人間にできると思われますか」
案内した客間で真っ直ぐと正面から少女は尋ねてきた。
「敦彦様がご実家やその縁をたどり、他の呪術師のご協力を仰いでいたことも当方は理解しております。
……全ては、お子様のためでしょうか」
男は、そうして少女の協力の申し入れを受けることにした。
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