第四話 こどく

 白髪しらかみの美しい少女に手を引かれている時、敦の腹は空腹を訴えた。それに顔を赤くして申し訳なく俯くと、彼女は微笑みかけたのだ。

「……まずは食事にしましょう。軽食でもよろしいですね?」

 そうして連れて行かれたのはかつては使用人を住まわせ、今は敦を押し込めている離れだった。自分に宛てがわれた部屋へ案内すれば、そこには既に人がいた。

「誰?」

「私の助手のバメイです。バメイ、なんでもいいから軽食を買ってきてちょうだい」

 そうして頷いた男は、少女よりもはるかに優れた体格であり、ゆったりと着こなしているパーカーやジャケットの下も恐らくは鍛え上げた筋肉があるのだろう。

 暗闇の中でも光り輝くような少女の白い肌とは対照的な健康的な褐色で、うねる黒い髪を青いベースボールキャップで押さえつけて髪型を維持しているようにも見える。

 すれ違いざまに合った目は透き通るような青色で、白神しらかみの少女よりも神秘的な何かを感じる。

「申し遅れました。わたくし稲置いなぎ探偵事務所の稲置いなぎ沙穂さほと申します。それでは、今回のご依頼の確認をさせていただきます」

「はい」

「今回のご依頼は敦様の腕のアザ、そしてご両親の死の真相でよろしかったでしょうか」

 明らかに子供用の勉強机に付随した椅子に座らせるわけにもいかず、敦は薄汚れたベッドに苦渋の決断で沙穂を案内した。一方の敦はガタついて安定して座れない小さな椅子に腰掛け、話をすることにした。

「はい。……幼馴染から聞いたんです。僕の両親は、トラックの事故で死にました。でも、幼馴染のお父さんが現場を見たら、トラックがぶつかる前に、両親は車の中で既に死んでいたかもしれないって。

それと……」

 そうして長いこと洗濯できず黄ばんだ服の袖を捲る。そこには、肘から手首までをぐるぐると何十にもムカデが這っているようなアザができていた。

「お父様に隠せって言われて、幼馴染にしか見せたことないんです。……いれずみじゃないです。これは、お父様が家に来てからいつの間にか……」

 幼馴染以外は信じてくれなかった腕のアザを見て、沙穂は顔色を変えることなくまじまじと見つめるだけだった。

「……敦様のお父様が何者なのか、そして敦様の身に何が起きているのか、詳しく調べる必要があるようですね」

 そうして沙穂はスカートのひだに隠れていたポケットから、一枚のハンカチを取り出した。それをそっと敦の手を包むように握らせると、そのまま立ち上がった。

「そろそろバメイが戻ってくる頃でしょう。適当に買わせたので、敦様の好みも分かりませんが……」

 そうして扉を開くと、丁度戻ってきたのだろう両手に荷物を抱えたバメイが立っていた。手当たり次第に買ってきたのだろう、有名なバーガーチェーンのロゴが大きく描かれた大きい紙袋が三つほど膨れていた。

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