第三話 神隠しの伝説
夜中に突然バメイが訪問した翌日、はやる気持ちを抑えて帰りのバスを待つ。初雪はとうに降っており、バスから降りればべちゃりと溶けた雪の不愉快な感触が陽奈を迎え出る。そこからしばらく町の外へと歩くと、一週間と少し前にハッとするほど美しい少女と訪れた神社へと着いた。
「沙穂、依頼人が来たぞ」
「ええ、どうぞ。今回も鎮守様にご協力いただいています」
鳥居の前に沙穂とバメイはいた。雪が降り始め流石に寒いのか、沙穂は前に会った時と同じワンピースの上から上品なインパネスコートを羽織っている。パーカー姿に大きなショルダーバッグを持ったバメイと並ぶと、どんな関係の二人なのかは一見して見当がつかない風貌であった。
前に来た時のように、沙穂は鳥居の前で一礼してくぐっていく。陽奈はバメイと並んで同じように一礼して境内へ進み、二度目の突然の夜に驚くことなく本殿の中へと歩みを進めた。
「早速本題から入りますが、今回の事件はやはり私達が解決すべき案件であることが判明しました」
この口ぶりからして、やはり自分は超常現象と呼べるものに巻き込まれたのだと陽奈は推測した。
「本当に姉は存在していたのですか!?」
思わず沙穂に掴みかかる勢いで前のめりになる。そんな陽奈と沙穂の間にバメイはサッと腕を出して沙穂を守るように振る舞う。その様子に興奮を収めた陽奈は
「一度この町と近辺地域の行方不明事件、そして編纂された伝承の文献と聞き込みを行いました。結果、橘様のように存在しない誰かがいたと主張する記録が散見されました」
沙穂が僅かに視線をバメイへ動かすと、バメイが持っていたショルダーバッグから一冊のファイルが取り出される。それを受け取って中を開くと、コピーされた古い本や新聞の切り抜きが所狭しに整列させられていた。
「古くから人智の及ばぬ行方不明事件は神隠しと呼ばれていました。昔は天狗や神の仕業と、現代では何者かによる誘拐、拉致と言われています。人ならざるものの
沙穂は陽奈が開いて持っていたファイルのページを数枚ひらりと捲る。そのまま稲置は開かれたページにある一部分を指差した。
__弟が神隠しされたという鈴木達也少年、行方不明__
100年前の記事だった。記事の内容は弟が神隠しにされ、少年以外誰も弟の存在を覚えていないという内容であった。少年が13歳の誕生日の翌日に弟が行方不明になったこと、その存在を兄だけが覚えてたという記述に陽奈は自分と既視感を覚えた。内容が似過ぎているのだ。
「橘様、今の御年齢を伺ってもよろしいでしょうか」
「……17、です」
雪が降る季節だと言うのに、今も指先が冷えたままなのに、背中を伝う汗の感触がする。
「橘様の誕生日を教えていただいてもよろしいでしょうか」
「来週、です」
凍えるほどの寒さではないのに、指先が震えてファイルを落としそうになる。
「それでは、その記事の少年が行方不明になったのは」
「18歳の誕生日の翌日、です」
ずっと座っていたのに、走っていないのに息があがって空気がうまく肺を満たさない。
「正直に申し上げましょう。貴方に危険が迫っています」
沙穂から告げられた言葉に青ざめた陽奈は、その日はそのまま家に帰された。帰り道で具合が悪そうにしていたというバメイの方便を橘家の家族は信用し、陽奈は自室のベッドで丸くくるまって震えるだけの夜を迎えた。
きっと自分には18の誕生日を迎えた次の日、人ならざるものに連れて行かれるのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます