第2話
二匹の捨て猫は、典子ちゃんの家で飼うことになりました。優太くんも猫は好きですが、お母さんが猫アレルギーなので、家に連れ帰ったら怒られてしまうのです。
「じゃあ、代わりにこれあげる!」
子猫が入っていた段ボール箱を、典子ちゃんから渡されました。箱だけもらっても優太くんは楽しくないですし、猫の匂いやら何やらが染み付いていて、やっぱりお母さんのアレルギーには問題になりそうです。
「これって『もらった』というより『押し付けられた』って感じだね……」
「優太くん、何か言った?」
「ううん、何でもない。じゃあ、また明日!」
いつもの曲がり角で典子ちゃんと別れて、大きな箱を抱えながら、優太くんは家へ向かうのでした。
「あら、その箱は何?」
「うん、典子ちゃんからもらった」
「典子ちゃんから……? いったい何なの?」
帰宅するとお母さんが不思議がりましたが、猫の入っていた段ボール箱は、なるべくお母さんに近づけない方が良いはず。説明は手短に済ませて、優太くんは箱と一緒に急いで二階へ上がり、自分の部屋へ駆け込みました。
「優太ー! 今日は塾がある日だからねー! 忘れちゃダメだよー!」
「うん、わかってるー!」
階段の下から叫ぶお母さんに、同じく大声で返します。
口では「わかってる」と言いましたが、気分は少し憂鬱でした。典子ちゃんは今頃、子猫と楽しく遊んでいるだろうに、これから自分は塾へ行く準備です。
「でも仕方ないかな。あの二匹、助けたのは僕じゃなくて典子ちゃんだし、だったら典子ちゃんにご褒美あるのも当然だよね……」
独り言を口にしながら、部屋の片隅に段ボール箱を置きました。
こうして室内で見ると、野外で見た時以上に存在感があり、大きな箱に思えてきます。小学生の優太くんならば、背中を丸めれば箱に入ることも可能かもしれません。
「うん、それも面白そうだ」
猫が飼えないならば、自分自身が猫の代わりになってみよう。猫が入っていた箱に入ってみたら、猫の気分になれるだろう。
そのような子供っぽい理屈が頭に浮かび、実際に入ってみると……。
「やっぱりこれ、ずいぶん窮屈だ……」
かなり無理な姿勢でした。入ったはいいけれど出られないのではないか、と心配になるほどの狭さです。
入ったのを後悔して、すぐに出てきました。
「うわっ!」
叫んでしまったのは、箱から抜け出す際、中から強く蹴っ飛ばす形になったからです。段ボールを突き破ってしまいそうなくらい、強い衝撃を箱に与えましたが、一応破壊することなく脱出に成功しました。
「ふう、危ない危ない。せっかく典子ちゃんからもらった箱なんだから……」
軽く伸びをしてから、たった今自分が出たばかりの段ボール箱を振り返り、優太くんは言葉を失いました。
なんと段ボール箱の隣に、自分そっくりの男の子が立っていたのです。
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