第3話
小学校まで、子どもの足で徒歩15分。この体で車の運転は大丈夫だろうか。松島菜々緒の時は何も考えずに車を運転したが、免許証の提示を求められたら、困ったことになったであろう。タクシーを使うか……。その時、電話が鳴る。由美子だ。
「おはよー。今日も変身したかなと思って? 今度はハリウッド俳優とか?」
「由美子―! それだと、目立ちすぎるでしょうね! 今度は…母なのよ……」
「え? 母って、美奈子のお母さんってこと?」
今朝のたっくんの様子を伝え、小学校の行事に行くことになったことを伝えると、
「私、午前中は暇だから、車出すよ。必要なものとかあるでしょ?」
そういうと、早々に由美子が自宅まで来てくれた。
「うわぁ……。まんま、おばさんやね。これは、これで、ビックリ……」
由美子は地元も同じで、母とも面識がある。
「まずは、服もいるし、手押し車? 杖? とか、どうする? 靴は、スニーカーでいけるか?」
母とは、10センチくらい身長差があり、中肉中背といっても、どちらかというと細身の私の服は、着られないだろう。
「杖か……。手押し車があれば、帰りは歩いて帰れるかも」
「イスになるタイプの手押し車なら、途中休憩もできるしね」
「でも、あれって、80歳くらいの人が使ってない?」
「うぅん……。確かに。美奈子は今、何歳くらいなんやろう?」
「さぁ。母が亡くなったのが73歳だから、勝手にそのくらいだろうと思ってたんだけど……。母は、歩くのが遅くて、たくさんは歩けなかったけど、杖も手押し車も使ってはなかったなぁ」
「まぁ、行って考えよ」
由美子の車で、食品から生活用品まで揃う、小規模のショッピングセンターへ向かう。まずは衣料品売り場へ向かった。おばあちゃんが着そうな服のコーナーへ行く。黒地に紫だかピンクだかの小花が幾何学模様のように散りばめられた、テロテロした生地のトップスと、ゴムで伸縮性のある、これまたテロテロした生地のズボン。試着室で着替える。さっきまで着ていた服(娘の昔のジャージ)の着心地の悪さと言ったら、もう…ない。試着した服は『これこそまさに、ジャストフィットだ!!』と叫びたくなった。
「由美子、やっぱりお年寄りにはお年寄り用の服だわ。いつも、なんであんな『the高齢者』な服を着るんだろうと思ってたけどさ、高齢者の体にフィットするように作られているんだね。すごいっ」
「何に感心してんだか。うん、いいんじゃない? 似合ってるじゃん」
こんな状況を受け入れてくれるところも、高齢者になった私を馬鹿にしないところも、由美子の良いところだ。私は、良き親友を持った。
「由美子……、いつもありがとうね……」
いつになく、弱々しく感謝の意を伝えると、
「何言ってんのよ。老い先短い年寄りみたいなセリフやめてよ」
と由美子が私にカツを入れた。体が歳を取ると、心まで気弱になるらしい。
次は介護グッズ売り場へ向かう。店員さんが、すかさず椅子を準備してくれる。
「何かお探しですか?」
「えっと……。杖か手押し車を見たくて……。」
いくつか、商品の説明をしてもらったが、手押し車は一万円程、杖は三千円程だった。また、余分な出費だ…。杖をつくだけで、大分、足の痛みが軽減されたので、杖を購入した。
「また、いらないものが増えるわ……。変身するたびに、普段使わないものばっかり買ってる」
「杖はいずれ、いるかもじゃん?!」
「まぁ……ね」
二人で顔を見合わせて、笑った。
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