第2話

 悠紀がたっくんを児童クラブに送って帰ってきた。実は今日、兄弟が二人共いない、滅多にないチャンスだからと、久しぶりに女二人で出掛ける約束をしていたのだ……。


「What will you do today……? (今日、どうする……?)」


「Um,what do you mean?  We're going out, right?

(え? どういう意味? 出掛けるんだよね?)」


「I've become such an abnormal situation, and I wonder if it would be better to cancel our plan ……(こんな異常事態だし、予定はキャンセルした方が良いのかなと思って……)」


「Oh, no. I was looking forward to going out with you, so I want to go out.

(え? お母さんと出掛けるの楽しみにしてたから、行きたい!)」


 結局、二人で出掛けることになった。悠紀は、私が外国人になったことを気にする様子もなく、むしろ、楽しんでいるように見えた。

 二人で服を買いに行き、普段は絶対に買わないような、蛍光ピンクのキャミソールや、エスニック柄のタンクトップを購入し、それに着替えて二人で海外旅行気分でランチへ行った。


「The burgers at this café are very good.(ここのカフェのハンバーガーがすごくおいしいの!)」


 アメリカンなハンバーガー専門店に着くと、木陰になっているオープンテラスに座り、おすすめセットを注文する。弾力のある香ばしいバンズに肉厚のパテから滴る肉汁、こんがり焼けたオニオンとベーコン、フレッシュなレタスとトマト、そしてバーベキューソースのハーモニーは、最高に美味だった。オープンキッチンで鼻歌を歌いながらパテを焼く、髭を貯えた外国人の店員さんと目が合うと、ウィンクをしてくれた。悠紀が連れ出してくれなかったら、こんなに開放的で海外旅行をしている気分を味わえなかったことだろう。悠紀にこんな一面があったことが意外だった。


「Mom, I would like to study abroad and become an interpreter or translator.So I'm working so hard to learn English right now. I have foreign friends and I'm able to speak a little English.

(お母さん、私ね、留学して通訳者か翻訳家になりたいんだ。だから、今、英語の勉強を頑張ってる。外国の友達もできたし、少し英語も話せるようになったの)」


「What?  Really?  I didn't know that at all. But when I see you speaking so much English, I can see that you are working very hard.

(え? そうなの? 全然知らなかった。でも、あなたがこんなに英語を話せるのを見ると、努力しているのがわかるよ)


 この『変身』には困ったものだが、毎月変身をする度に、家族の意外な一面を知る。いつまでも、と思っていた我が子達が、自分の知らない間に、自分の夢を見つけ、努力し、こんなにも躍進していた。何でもわかっているつもりでいた我が子の意外な一面を知り、逞しく、誇らしく思うのと同時に、少し寂しいとも感じてしまう。もちろん、嬉しいが勝つけれども。


『結局、親ができることは、子の成長を見守り、応援していくことだけだな……』


 悠紀との楽しいミニトリップを終え、帰宅後、夕飯にはやや、アメリカンなメニューを出してみる。夫は相変わらず、英語は話せないが、関西人のノリでジェスチャーゲームのように、コミュニケーションできてしまう。こんな非常時?でも、爆笑の渦に包まれる我が家は最高だと思う。

 翌朝はやはり、いつもの私に戻っていた。今後着ることもないであろう派手な服や、菜々緒(しか似合わない)カラーのリップを、箪笥や引き出しの奥にしまいつつ、来月は、またどんな不用品が増えるのだろうと、自嘲する。そしてまた、いつもの朝の戦場に向かった。








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