第36話 ~幕間③~公爵令息は妹の従者にずっと連戦連敗である・前編
◇◆◇◆◇◆
「おい、カレン。ディアの事だが……」
「何ですかヘリオス様、早く身を固めて下さいませ………『ざまぁ』」
とてつもなく冷たい目で、且つ"本当は見るのも嫌だ"とでも言うように一瞬だけチラリと侮蔑の視線を向けたカレンの態度と『ざまぁ』の言葉。
もう何度も繰り返されているこのやり取りに、ヘリオスの心と鼻っ柱はバッキバキに折られていました。
「……だから、今回の事は俺が悪かったと言っているだろう?!」
「ええ。ですから早く婚約者をお決めになって身を固めて下さいませ………『ざまぁ』」
最早ヘリオスの方を見もしないカレンが、手元の書類を捌きながら吐き出す言葉は外面のディアナもビックリの冷たさです。その冷たさにダメージを負いつつも、なんとか会話を続けようと足掻くヘリオス。
「……カレン、お前、俺が
「下手に出て当然でしょう。賭けに負けたのにその賭け金をまだ支払われていないのですからね。『ざまぁ』」
賭け金とは、今ふたりがシノビを使って調べている反王家の勢力の洗い出しと、ヘリオスが母親である公爵夫人と約束した『婚約者を決めて身を固める事』を指しています。
「……だから! おっ、俺と結婚してくれと言ってるだろう?!」
「何度もお断り申し上げていますが、改めてお断り致します!! 私のような日陰者よりも次期公爵夫人に相応しいご令嬢は何人もいる筈です。……『ざまぁ』」
「いや! お前が最も適任なんだ。ディアナの手伝いをしていたから領地の商売や職人にも詳しいし、俺の愛想笑いに惑わされることもない。公爵夫人として誰かに妬まれたり狙われそうになっても、大抵の危険は自分で対処できるだろ?」
矢継ぎ早に理屈を並べた後で、カレンの目を見たヘリオスはハッと昔の事を思い出しました。
あの時も『たまには息抜きをしろ』と、いかにも正論の理屈でカレンを自分の思うように動かそうとして強く反発された事。そしてドロランダに『嘘は良くないですね、素直さが肝心です』と諭された事を。
今にも『ざまぁ』と言い出しそうなカレンを手で制し、ヘリオスはじっとカレンを見つめて心の内をさらけ出します。
「違う。……すまない。本当は適任だとかシノビだからとかじゃない。……俺はカレンを愛している。結婚するならお前としたいだけだ」
「!!」
「きゃっ!」
唐突な愛の告白に思わず固まるカレン。そしてつい声を出した
しかしそのもうひとりの存在など居ないかのようにヘリオスはカレンだけを見て、立ち上がり一歩ずつ迫ります。
「何故駄目なんだ。もしや他に好きな男でもいるのか? アレスか? それともエドの従者とパーティーで踊っていたが、あいつのことが好きなのか?」
「違います! なんでそうなるんですか!?」
カレンは相変わらず強く言葉を発してはいますが、明らかにヘリオスに気圧され、彼が迫る度に自分も一歩後ろへ下がります。が、それほど広くない部屋の中ですぐに背に壁が当たりました。
「頼む。俺に出来ることなら何でもするから俺の婚約者になってくれ!」
「……む、無理です。私にはディアナお嬢様という
愛の告白を境にカレンが冷たさを失い『ざまぁ』も出なかったのを好機と見たヘリオスは、そのまま彼女の左右に両手を伸ばし壁に手をつきました。
愛する人の逃げ場を塞ぐように腕の中に閉じ込めたまま、至近距離で話を続けます。
「それでも構わない。お前が望むならディアナの側にこれからも侍女として居て良い。『次期公爵夫人は体調不良で領地で静養中』とでも周りに言っておけば済む。だから俺の妻に……ごふっ!?」
カレンが右手の中指と親指で輪を作り、中指を弾いてビシリとヘリオスの喉に当てました。
普段それで小石などを弾くとそこそこの攻撃力を与えるよう訓練をしている為、結構なダメージが彼の喉に走ります。
「げほっ、ごほごほっ……」
ヨロヨロと数歩下がり、背を丸め喉に手を当てて咳き込み続けるヘリオス。それを再び冷たい目に戻って見下ろすカレン。
と、ふたりの間に細身の身体の女性が割り込みます。先程ヘリオスの告白につい声を出したこの場の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます