第34話 ~幕間①~公爵令息の想い出・前編
【前書き】
今回は~幕間~と言いつつも、少し長め(全四話構成)でヘリオスとカレンのお話です。
二人がまだ小さな頃から話が始まります。
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◇◆◇◆◇◆
「カレン! お前従者のくせに生意気だぞ!」
「違うもん! 私を従者扱いして良いんはディアナお嬢様だけやもん! ヘリオス様なんて大嫌い! あっちいって!」
「なにっ……!?」
同い年の少女、カレンの言葉にカッとなったのはヘリオス少年。普段は子供らしくない冷静沈着な態度で居るのですが、思わず拳をぎゅっと握ります。
「やー!!」
「うっ……」
そこにヘリオスへどすんとぶつかる
「
ヘリオスがその
「ディアナ……」
「お嬢様!」
「お兄ちゃんも、カレンも、仲良うして……ううっ」
そこまで言った妹の口元がわななき、遂に涙がポロリとこぼれ落ちました。
「ごっ……誤解だよ! 僕ら、仲悪くないよな? カレン!」
「そうです! ヘリオス様と私はめ~っちゃ仲良しですよー! ほらねっ」
慌てたふたりはディアナの前で手を繋いでぶんぶんと振って見せます。
涙に濡れた目をぱちぱちさせて訊くディアナ。
「ほんま……?」
「本当だ!」
「ホンマにホンマです!」
「……あぁ、良かった~。どないしよと思ったぁ……」
「「!」」
赤いほっぺたを緩ませ、涙声でふにゃりと笑顔になるディアナ。それを見たヘリオスは複雑な気持ちになります。
(クソっ、めっちゃ可愛いな。コレじゃ八つ当たりもできひん……って、おい、カレン?!)
ディアナの笑顔に心を撃ち抜かれたカレンはヘリオスの手を振りほどいて駆け出し、がばりとディアナを抱きしめます。
「天使……! うちのお嬢は世界一優しくて美しくて可愛い!! 天使過ぎるっ……!」
「カレン……なんで泣いてんの? どっか痛いん?」
「心臓ですー! キュンキュンしてますー!」
「?……だいじょうぶ? お背中とんとんしよか?」
「うああああ! 可愛いっ!!」
涙が引っ込み、不思議そうな顔をしたディアナをそのまま抱き上げるカレン。この歳で既に厳しい訓練を重ねているためか、10センチも身長差の無いディアナを軽々と持ち上げてみせます。
「さっ、あっちで涙を拭いて、お鼻をちーんして、お顔をキレイキレイしましょうねっ!」
「うっ、うん……?」
「あっ、カレン……」
呼び止めようとするヘリオスの声が聞こえないのか、それともわざと聞こえないフリをしたのか。ともかくカレンはディアナを抱えたまま、さっさと遠くへ行ってしまいました。
「クソっ……あいつ腹立つ…………」
そう言いながら、先程まで繋いでいた右手をじっと見つめるヘリオス。その後ろから世話係の侍女ドロランダがぬっと現れます。
「
「わあっ!?……いっ、いや何でもない! それから"坊"はやめろ!」
「失礼致しました"ヘリオス様"。……おや、カレンは?」
少しだけムッとして返答するヘリオス。
「またディアナの世話を焼きに行ってしまったよ」
「あらあら、まあ。カレンはお嬢様を溺愛してますからねぇ」
「でもシノビならさ、僕に従うべきだろ!? 僕は将来父上の跡を継いで公爵になるんだから。それなのにカレンは僕に言い返すばっかりで生意気なんだよ……」
ドロランダは目をぱちくりさせました。
「ヘリオス様、カレンに何を命じたんですか?」
「え?……いつもディアナの為に働いてるか、訓練してるかのどっちかだろう? だから『たまには息抜きをしろ』って言ったんだよ」
「ふふっ。そんなお優しい事を言ったのに、何故あんな言い合いに発展するんでしょうね?」
「聞いてたのか!? じゃあわざわざ訊くなよ!」
ドロランダは目だけでニヤッとしながらも優しい口調で返します。
「いいえ。最初は聞こえませんでしたよ。ヘリオス様とカレンが勝手に大声で言い合いをし始めたので、私のいる所まで声が届いただけです。……でも、ヘリオス様? 嘘は良くないですね」
「何が!? 嘘なんて……」
「そういう時は素直さが肝心ですよ。『息抜きをしろ』ではなく、『たまには僕とも遊んでくれ』と言わなくては」
「は?…………はぁ!?!?」
ところで、ヘリオスは誰もが認める美少年です。
先程カレンはディアナを天使と讃えましたが、その兄の外見こそ多くの貴族に『天使のよう』と例えられ誉めそやされています。ディアナは彼のついでに『妹君も可愛らしい』と誉められている状況なのです。
ヘリオスが軽く愛想笑いをすれば皆がつられて笑顔になりますし、常にあちこちから誘いを受け、時には絵のモデルを求められる程の人気ぶりでした。
太陽を連想させる美しい黄金の髪。青い目はグレーが入りやや曇天気味ではあるものの、何故か見るものが引き込まれる空を思わせます。
恐ろしいほど整った顔立ちは愛らしさと美しさに理知的な面も混じっており、その白い肌はきめ細かく艶があり白磁のようです。
そして、その白磁のような美しいヘリオスの頬が今は朱に染まっています。
「ドロランダ!……僕を馬鹿にする気か!?」
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