第33話 公爵令嬢は慰謝料を請求すると誓う③
「では、今までヘリオス様の婚約者が決まらなかったのは……」
ディアナが外面を崩し、苦笑します。
「ねぇ、酷いでしょ? 本当の気持ちをずっと隠していながら、周りには私が一番可愛い、と言って誤魔化していたんよ! 今になって慌ててカレンと婚約したいって言い出して、きっぱりフラれ続けてるの。最近ではお兄様がカレンに話しかける度に『早く身を固めて下さい。……ざまぁ』しか言われなくて……ぷふっ」
その場面を再度思い出し、堪えきれずに口元を隠して吹き出すディアナ。ドロランダが彼女の言葉を部分的に否定します。
「ヘリオス様の『お嬢様が一番可愛い』というお言葉にはかなり本気も混ざっていたと思いますよ。……何せ、カレンは小さな頃からお嬢様を世界で一番可愛らしくて美しい、と溺愛しておりましたもの。その価値観がヘリオス様にも刷り込まれたのかと」
「!!……あぁ、もう! カレンもお兄様もハタ迷惑なんだから! 私を巻き込まん……ないでほしいわ!」
一転、ぷりぷりするディアナを見てミレーユがシャロンに言います。
「それは無理ですよねえ? 今までの外面で他人を寄せ付けない冷たい美貌の御姉様も素敵でしたけど……こんな素顔を見たら、可愛らしくてついついかまってしまいたくなるというものですよね?」
「カレン様の仰る事も尤もですわ。私が知る中でも一番可愛いげのあるご令嬢ですもの。創作意欲が刺激されますわ!」
「!!……あ」
シャロンの言葉にある事を思い出し、ディアナがサーッと顔色を悪くします。
「あの……シャロン様……」
「なんでしょう?御姉様」
「あの『王子と凍える赤薔薇姫』の事ですけど……そ、その、私は自分の事だと気づけへ……気づけなくて……その、申し訳ないですが、公認とか本にするという話は、撤回でき……ませんか……?」
「えっ!」
今度はシャロンが顔色を失ったのを見て、ディアナは慌てて話を続けます。
「勿論シャロン様の小説を素晴らしいと思った気持ちは本物です!! 今後も後ろ楯としてシャロン様の才能を磨くための協力は惜しみません!!……でも、あの、その、私をモデルにした話は……アカンというか……この場の皆様の胸に納めて頂けませんかと……」
段々と言葉尻が小さくなっていくディアナを見ながら、お互い顔を見合せ、気まずそうな四人の『赤薔薇姫の会』。ちょっと間を置いてからシャロンが口を開きます。
「申し訳ございません。ディアナ御姉様。もう遅いですわ」
「えっ?」
「
「ええっ?」
「あの日、私が御姉様に
「えええっ!?」
「アレス・ノーキン様も否定して下さったんですけど、ヘリオス様とノーキン様がご友人だから、その妹を庇っていると益々勝手な事を言われて……思わず完全否定する為、
「ええええっ!?!?」
「それで、ぜひ読みたいという方が後を立たず……御姉様が本にしても良いと仰っていたので、てっきり見せても問題ないかと……も、も、ももも申し訳ございません!!!」
頭をテーブルに擦り付けんばかりに下げるシャロン。その横に座るディアナは先程まで青かった顔に急速に血が上り、真っ赤になってパクパクと口を開けたり閉じたりしています。
「……そ、そんなん、聞いてへん……」
ドロランダがカレンと良く似た笑い方をしました。
「お嬢様、私はカレンから聞いていますよ? それを本にすると言い出した時に、お嬢様が恥ずかしさでのたうち回ってベッドをゴロゴロ転がる羽目になっても知らないですよ、とちゃんと忠告したそうですけど?」
「……"恥ずかしさでのたうち回って"が抜けとる!! しかも何があっても守ってくれるって言うてたのに!! カレンの嘘つき!!」
その深紅の瞳が涙で潤み、吊り上がった目尻をへにゃりと下げて真っ赤な顔で抗議するディアナの頭を、まるで幼い子供を扱うように撫でるドロランダ。
「良いじゃないですか。お嬢様の可愛らしさと健気さが皆に広まれば、
ドロランダの言葉と、ディアナの可愛らしい様子にコクコクと頷くその場の四人。しかしディアナは納得できず悔し紛れに呟きます。
「もうっ! もう…………請求してやる!! こんなアホな事しよったお兄ちゃんと、ついでにカレンにも……絶~っ対に慰謝料請求してやるわ!!」
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