第24話 王子はヘタレでないと皆に証明する
「……!!」
ディアナは自分の胸があたたかい物で満たされるのを感じました。
それは胸から溢れると彼女の赤い瞳までせりあがり、みるみる内に膨れ上がって、彼女の完璧な外面と一緒にポロポロとこぼれ落ちたのです。
「……うっ……ううっ……。ふえぇ……」
「ディアナ!?」
学園ではいつも無表情か氷の微笑しか見せない赤い薔薇姫。その彼女が顔を真っ赤にして泣く様子に、周りで様子を見ていた者達も皆驚きを隠せませんでした。王子も眉根を僅かに寄せ、ディアナの手を握ったまま立ち上がり心配そうに彼女の顔をのぞきこみます。
「ディアナどうした?……まさか嫌だったか?」
エドワード王子の問いに、涙をこぼしつづけながら首を横に振ったディアナは、震える声で返します。
「わたっ……私でええの?」
「……ディアナ。君がいいんだ!」
感極まったようにディアナを抱き寄せるエドワード王子。
「でっ……殿下!?!?」
「ああ、やっと本音を言ってくれたね! 嬉しい!」
混乱しながらも抵抗するディアナですが、王子に固く抱きしめられて身動きがとれません。
「殿下、エドワード殿下……やっ、おやめ……離して……」
「ふふっ、
「!」
耳許で王子に小さく囁かれてディアナは未知の感覚にビクリとしました。その耳がどくどくと脈打っています。頬を真っ赤に染めたディアナはその吊り上がった目尻をへにゃりと下げ、涙を溜めて震えながら王子を見上げます。
「…………は、はよ離して……こんなん、心臓がもたへん……」
「………………あー。…………やっぱり無理だ!」
再度きつくディアナを抱きしめるエドワード王子。
「ちょ……! 殿下の嘘つき!」
「ははは、敵を探るためとはいえ、今までフェリア嬢に惚れたフリや婚約破棄のフリを散々してきた嘘つきだからね。それに比べれば些細な事だろう?……なあ、ヘリオス」
まるで見せつけるように、片手でがっちりとディアナの腰をホールドし、反対の手で銀の髪を愛おしそうに撫で、編み込まれた黒いリボンを弄びながらヘリオスに話しかけるエドワード王子。
「ちゃんと僕は誰を妻にしたいかを皆の前で示したし、ディアナからも求婚の了承は貰ったぞ。賭けは僕の勝ちだろう?……君達の家では『契約の破棄は生き死にと同じ』らしいからな。ここまできて反故にはすまい?」
ヘリオスの余裕だった笑みにほんの少しだけ寂しそうな影がかかりました。
「そうですね。もうひとつの目的もちゃんと果たせましたし、私の敗けであると認めざるをえません」
「もうひとつとは、アレか?」
王子が先程外様の令嬢達を退出させた出口の方に目線を送ると、ヘリオスが頷きます。
「はい。今頃
この会話の間も、抵抗するディアナの頭を撫で続ける王子。その指が偶然か意図的にか、耳にかかります。
「きゃっ!! 離っ……、もう~~~っ!! 殿下のアホ!」
(……アホ?!?!)
じたばたするディアナが遂に耐えきれず罵倒の言葉を口にすると、今まで固唾を飲んで見守っていたその場の殆どの貴族子女が膝をかくりと落とし、ズッコケそうになりました。
そしてその場の張りつめた空気が一気に柔らかくなります。クスクス笑いをする者。拍手をする者。王子の求婚が成功したのを乾杯で祝う者。そして―――――
「御姉様ったら普段は寡黙なクールビューティなのに、実はカンサイ弁の恥ずかしがり屋さんとか可愛すぎませんこと?!」
「クーデレ? ツンデレ? 属性過多にもほどがありますわ! ギャップ萌えですわね!!」
「ひえええっ、あのお二人のビジュアルが最高に尊すぎて辛いです! シャロン様、さっきのプロポーズのシーンをぜひ小説に!!」
「言われなくても書きまくりますわ!! 今脳内に真っ赤になった御姉様のご尊顔を焼き付けてます!!……可愛い! 綺麗! 鼻血ものですわ!!」
「あ、あの、ファンクラブに私も入れてくださいませんか?」
「ぼ、僕も……男ではダメでしょうか……?」
「皆様、この方々の入会は如何致しますか?」
口々に萌えポイントを語る『赤薔薇姫の会』=ディアナ御姉様ファンクラブの面々のもとに、新たな
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