第25話 やっぱりヘタレと罵られる王子①

 ◇◆◇◆◇◆



「実は僕に接触してきた女性はフェリア嬢一人じゃなかったんだよ」


「え!?」


 夜空に満月がのぼり、そのあかりが優しく学園の中庭を照らしています。

 あの後、全ての生徒に祝福されながらパーティー会場を辞したエドワード王子とディアナの二人は、中庭のテラスに設けられたテーブルの一つを借りて話をしていました。


 以前王子とフェリアが談笑していたのと同じところですが、あの時はテーブルの向かい合わせに座っていたのに対し、今は椅子を移動させディアナの横にぴったりと密着し手を握るエドワード王子。

 すぐに抱きしめようとする王子に全力でディアナ(とカレン)が抵抗した結果、妥協案でこうなったのです。


「君は婚約者である僕にも外面で冷たい態度を取る事で有名だったから、間に割り込めると勘違いした女性に何度か厚かましくアプローチされていてね」


「……それは……申し訳ございません」


 自分の態度が一因だと知ってしゅんとなるディアナに、翠の目で優しく微笑む王子。


「いや、いいんだ。それにそういう女性はすぐに調べがつく。殆どは身の程知らずに未来の王子妃を夢見た者だ。だが中には反王家や、僕の足を引っ張りたい内部勢力の手の者も居る。時には他国から差し向けられた女性もいたな。……しかし、フェリア嬢だけは正体がわからなかった」


「王家のシノビから裏の顔の報告が上がらんかったからですか?」


 ディアナはすっかり王子に心を許し、カンサイ弁で話しています。


「そう。実はセオドアともう一人僕の直属のシノビ以外は父上陛下の手が回っていたわけだ。しかし最初はそうとわからなかったからとても不気味だった。それで向こうの罠に嵌まったように見せて直接探ろうかと思ったんだ」


「そんなの危険やないですか……」


「ははは。全く危険ではないよ。フェリア嬢は学園でしか接触して来なかったからね。学園内なら武器は携帯できないし僕には常にセオの他にも最低一人は護衛が付いているから、万一刺客だったとしても危険性が低い。それより彼女が不気味な存在のまま僕の周りでうろつかれる方が怖かったんだよ」


 そこに苦笑しながらセオドアが後ろから声をかけます。


「でもハニトラ男爵令嬢は一向に尻尾を出さない。しかも彼女は徐々にディアナ殿との婚約破棄をするよう匂わせてくる。最初の内はかわしていましたが、あまりに続くと彼女に夢中になっているのは演技だとバレる恐れがある。……で、婚約破棄宣言の途中で『今日は縁起が悪い』って理由で無理やり中止する作戦を取っていたわけです」


「じゃあ、あの鏡とか猫は偶然やなかったん!?」


「はい。鏡はもう一人のシノビが割りました。黒猫も僕がこっそり連れてきましてね。でもその時、ディアナ殿が殿下に婚約破棄を言わせようと催促なさっていましたよね?」


「ええ……そやね」

(確かにあの時は、はよ気持ちの整理をつけたくて、婚約破棄を言わせようと思てたわ)


「実はその前にこれはアキンドー公爵家の仕業ではないかと思い至りまして。ディアナ殿が殿下との婚約が嫌でこんな事を企んだのかと疑っていたんです」


「え!?……じゃあ、私がちゃんと婚約は嫌やないって殿下に言うておけば……」


「いいえ、殿下も悪いんですよ。もっと前にディアナ殿に面と向かって訊いておけば良かった話です……それもこれも」


 セオドアの目が、三日月の形にニヤリと細められます。


「殿下がヘタレだから、そちらに嫌がってないか訊けなかったわけです」


「セオドア!」


 従者の言葉に、余計なことを言うなと言わんばかりに語気を強めるエドワード王子を見たディアナは、不思議に思います。


(セオドア様、主である殿下をヘタレ呼ばわりしてるけど不敬にならんの……?)


 しかしセオドアは澄ました顔で続けるのです。


「……それで、ディアナ殿に婚約の破棄を催促されたものですから、あの後『やっぱり僕との婚約が嫌だったのか』と殿下の凹みっぷりがそれはそれは激しくて……」


「セオ!!」


 セオドアの暴露に驚くディアナ。そして、あの時のトボトボと帰る王子の後ろ姿を思いだし、カレンと目を合わせて笑いを噛み殺します。

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