第8話 完璧?な貴公子の上を行く完璧な侍女カレン
ディアナの
「おお愛するディア、なぜそんな事を言うんだ?俺の胸は張り裂けそうだ!」
「実の妹以外の女性にそんな事を言わないからです。ワタクシがエドワード殿下の婚約者でなければ、ワタクシ達兄妹はあらぬ疑いをかけられるところでしたのよ」
「だってディア以上に美しくて可愛い女性が居ないんだから仕方ないだろう!」
自信満々で言いきる兄に、今度は妹が眉を寄せ顔をしかめる番でした。
ディアナは決して醜女では無いですが、王都で彼女に面と向かって『美しい』や『可愛い』などと言うのは公爵家の家族と使用人くらいのものです。あとは明らかなおべっかを使ってくる自称"取り巻き"のような人物のみ。
持って産まれた物ですから仕方がないのですが、その大きくて吊り上がった目で見つめるとよほど恐ろしいらしく、話相手が委縮して言葉を失う事が過去何度もありました。
また、王都ではかなりの割合で無表情でいるか、オートモードを駆使し、おべっかを使う相手はバッサバッサと氷の微笑で切り捨てる冷酷な態度ですから、誰も『美しい』や『可愛い』と言わないのも当然かもしれません。
一方の兄といえば、『名は体を表す』と言いますが
(……私とお兄ちゃんが男女逆なら良かったのに……)
もしディアナが男なら公爵の跡目を継いで領地経営に精を出すことができたでしょう。また、腹芸が苦手なので財務大臣は無理だとしても金勘定に絡む補佐官としては割と優秀な筈です。
ヘリオスは金勘定よりも父の社交性(表向きの愛想の良さと裏側の腹黒さ)を受け継いでいます。王子の婚約者を利用しようとわらわらと寄ってくる不届き者も、ディアナのように切り捨てるのではなく笑顔でかわして逆に利用する事まで可能ですし、シノビの使い方も心得ています。兄のような女性なら王子を表と裏で支えることができたでしょう。
ディアナがそんな妄想を自分で考えてちょっぴり悲しくなっていると、突如カレンがこんなことを言い出しました。
「お嬢様以上の女性……ではフェリア・ハニトラ男爵令嬢など如何でしょうか?」
「「は?」」
兄妹は驚いて同時にカレンを振り返りました。彼女の目が、イタズラでも思い付いた子供のようにキラキラしています。
「あのピンクブロンドの髪。サファイヤブルーの瞳。薔薇色の頬に甘く高い声。庇護欲をそそる壊れそうな細い腰。魅力的じゃないですか?」
「いやいや、我が妹の魅力には遠く及ばん! ディアが月ならあいつはせいぜい路傍の石だな」
「その石が宝石の原石と言うこともございます。何よりエドワード王子を1ヶ月で籠絡したんですよ。王子にはディアナお嬢様と言う至高の存在がいるのに! ……それほど素晴らしい女性なのか確かめたくなりませんか?」
「カレン……貴女」
「カレン、お前……従者のくせに
「何度も申し上げておりますが、私の主はディアナお嬢様です。お嬢様の為なら何でもするつもりですわ。ヘリオス様もお嬢様を想う気持ちは同じではないんですの?」
「ぐっ……」
カレンの瞳に今度は意地の悪そうな光が満ち、それをニイッと細めました。
「あら、普段あんなにお嬢様を褒め称え、愛していると仰っていたのはお得意の演技でしたのねぇ? お嬢様に婚約破棄という不名誉な危機が迫っているのに自らお調べもされないなんて……」
「ふ、ふん、ではシノビに調べさせる!」
「もうやらせましたが、大した成果はありませんでした。フェリア嬢は高位貴族の若い独身男性にしかご興味がないようですから、私が直接接触するのは難しくて……その点ヘリオス様なら適任ですわね?」
「……クソ! やればええんやろ!」
カレンはニッコリしてこう言います。
「はい。
「坊はやめろ!」
ディアナは心の中で「お~」と感嘆の拍手をしていました。流石は小さな頃からアキンドー兄妹と一緒に育ったカレンです。この兄にカンサイ弁を……素の言葉を言わせる女性など、カレンと元世話係のドロランダ以外にそうはいないでしょう。
「ではお嬢様、これから例の護身術の訓練に参りましょう。ヘリオス様、失礼致します」
カレンは難しい顔をした彼をそのままに、ディアナを部屋から連れ出しました。
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