第7話 公爵令息は超絶美形だがちょっとオカシイ
◇◆◇◆◇◆
「で、フェリアさんの事なんですが。お嬢、すんません。なにもわかりませんでした」
それは同じ日に公爵邸に帰宅してからのこと。カレンが珍しく申し訳なさそうな顔でいます。今日はカレンの百面相やな、と思いながらディアナは紅茶を飲み、カンサイ弁で返しました。
「……なにも?」
「表向きの顔は、今まで漏れ聞いてきた事と完全に一致してますわ。男爵の愛人の娘で途中まではちょっと裕福な程度の庶民暮らし。愛人であった母親が亡くなったのを切っ掛けに、ハニトラ家の養女になってます」
「……裏の顔は全く出ぇへんの?」
「まったく報告に上がってきません。エドワード殿下との出会いは1ヶ月ちょっと前、フェリアさんが王立学園に編入してきてすぐに殿下の目の前で転んでドジっ子ぶりを二回披露。そこから何度か
今日カレンが所用で少しディアナから離れていたのはこの辺りを学園内で探るためだったのです。しかし、フェリアの事をアキンドー公爵家の手練れのシノビ達が探れないとは、とディアナは驚きました。
彼女はもう一口紅茶を飲み何か苦いものを感じます。舌の上に紅茶の渋みが広がったのかと思いましたが、それは心の中の苦いものと、得体のしれない疑問とがぐるぐるとない交ぜになったものかもしれません。
「裏の顔が無くて、見た目があれほど可愛くて、一緒にいたいとねだる所はちょっと礼儀知らずやけど情熱的。……そんなフェリア嬢と
「そんな可愛いもんじゃないです。
「そやね……でも、うーん……そもそもどこかの
「まあそうですが、一応他国や国内の反王家派の勢力から送り込まれた刺客とかの線も考えた方がええかもしれません。ちょっと他の方法で探ってみようかと思てます」
そんな会話をしていると、ディアナの自室のドアをノックする人がいます。
「ディア、ちょっといいかい?」
「お兄ちゃん? どーぞ」
ドアを開け、美しい笑みで颯爽と入ってきたのはひとつ上の兄、ヘリオス・アキンドー公爵令息です。この国の財務大臣でもあるディアナの父、アキンドー公爵の跡目を継ぐ存在として同い年のエドワード王子とも親しくしている存在です。
「おお、今日も相変わらず我が妹ディアはこの国一の美しさだ。眩しくて目が開けられないよ」
春の光のような明るい金髪に、グレーに近い淡いブルーの瞳。陶器のような白い肌を持つ美形の見本のような男である兄のヘリオス。彼が自身の美しさを差し置いて妹を国一番と褒め称える姿はちょっと白々しくもあります。
幼少期から彼が各所から「天使だ!」と賞賛されていたのを真横でずっと見ており、尚且つ自分はそのおまけでお世辞を言われるばかりだったディアナは、白々しいを通り越して寒気すら感じていました。
「はいはい。今日も相変わらずお兄ちゃんはきっしょいな」
彼女の挨拶に、その兄は額に手を当てため息をつきます。
「……ディア、ここは王都だぞ。いくら自分の家だからと気を抜いてカンサイ弁を使っていたら、いざという時にボロがでるぞ」
「御言葉ですがヘリオス様、お嬢様は外ではオートモードを多用されているので言葉遣いでミスをされたことはございません。心の中まで標準語でお話しています」
(カレン……なんで私の心の中まで読めんの)
「オートモード?……ああ、あれか」
カレンの反論に、ヘリオスはその美しい眉根を寄せます。
「あれ、もうちょっと愛想よくできないのか?……いやしかし、お前の名前の通り
(
ヘリオスの言葉に体感温度が
「こほん。……先程はお国言葉で失礼致しました。改めてご挨拶致しますわ。……お兄様は今日もとっても気持ち悪くおぞましい存在ですわね。今すぐにワタクシの前から消えてくださらない?」
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