第6話 公爵令嬢は才能(商売)の原石を見つけた



「そんな事ないわ。それにね。ワタクシ個人の小さな力だけど、もしよろしければ貴女の後ろ楯になりたいと思ってるの」


「ふえぇっ!?」


「貴女には素晴らしい才能が眠っているけれど、まだ原石だわ。貴女さえよければ、今度ワタクシの家庭教師が文章の添削と指導をするよう手配をしたいのだけれど」


「えっ、あのっ、えっ……本当に……?」


 シャロンの顔がぱっと明るくなり、顔色もかなり赤くなりました。瞳も潤んでいるかのようです。とても嬉しいのでしょう。


「ええ。それで才能を宝石になるまで磨き上げることができたら素晴らしいと思わなくて?……我が公爵家は、本を出版や販売する商会にも顔が利くのよ」


「本!?……えっ、この話を本にしても、良いのですか……?」


「勿論もっともっと磨いて更に素晴らしい物になってから……という将来の話ですけど。その為にまずは添削と指導を受けてみてくださいな」


「……あっ……あのっ……ありがとうございます!! ディアナ様の公認を頂けるなんて……私、もう死んでも良いです!!」


 先程とは違う種類の涙をこぼしそうなシャロン。流石にこれは純粋に喜んでいるのがディアナにもわかりました。

 でも公爵家ではなく、あくまでもディアナ一人の後ろ楯と伝えたのに『公認』という言葉は少々格式張っています。死んでも良いというのもいささか誇張された表現のような気がします。


(でも、作家の表現力は豊かなものだからつい誇張されるものかもしれないわね)


 ディアナはそう考え、軽く流しました。


「いやだわ、大げさです。今度お手紙を出しますわ。家庭教師を派遣しますから都合のよい日を考えておいて下さいな」


 ペコペコするシャロンにもう少し休んでいくように言って、ディアナとカレンは応接室を出ました。


「……お嬢様、本当にいいんですか?」


「何が? カレンも少し読んだでしょう? 彼女は天才よ。もっと磨き上げてから将来うちの息のかかった商会で本を出せば相当な売り上げになりそうだもの。貴族の娘という身分が問題なら覆面作家として活動すれば良いだけだし」


「……あぁぁぁ、やっぱりお金の事しか考えていなかったんですねぇ……」


 頭を抱えたカレンに、侮辱されたように感じて言い返すディアナ。


「失礼ね! お友達になって欲しいというのも本当よ! シャロン様はゴマすりしてくるあの嫌らしい令嬢達と違って下心はなさそうでしょう?」


 まるで何かに打ちのめされたような表情のカレン。いつもの彼女とは全く違う態度です。


「いや、そんな意味じゃないんですわ……シャロンさんには下心は無いですけど……」


「じゃあ何? まさか子爵令嬢では不満なの? 元々王都での友達がいない私と仲良くしてくれそうなのに、家柄を気にしている場合かしら?」


「や、それはええんです。ただ下心ではないですけど、彼女はお嬢に対する別の気持ちがあるというかなんちゅーか……それに本にするとなるとぎょうさん問題が……」


「カレン、言葉が」


 カレンはヒュッと息を吸い、即座に標準語で従者らしい態度に戻りました。


「失礼致しました。ちょっと考えることが多過ぎて若干キャパオーバーしました」


「そんなに考えるほど、シャロン様は怪しく見えたの?」


「いいえ。お嬢様のお友達には良いと思います。……ただもし将来本を書かせるなら、覆面作家になって貰うのは必須です。内容も添削ついでに修正して……尚且つ表向きはアキンドー公爵家とは無関係なように見せた方が良いでしょう。新規で商会を立ち上げるか、どこかを買収するかですね」


「……なぜ? 破廉恥な内容ではないんだから、うちと関係ないようによそおう必要はないんじゃなくて?」


「大有りですよ!! 後で気づいてベッドをゴロゴロ転がるような真似をされても知りませんからね!!」


「……?」


 カレンのちょっと怒ったような呆れたような態度を理解できず、ディアナは困惑しました。小さい頃から一緒にいる姉妹のようなカレンの気持ちですら読めないことを歯がゆく思い、次いで一つの可能性に思い当たります。


「……大丈夫よ、カレン! もしワタクシに心から信頼できるお友達が沢山出来ても、一番の親友は貴女だから!」


「……はぁ?!」


 カレンの反応に、自分の考えは明らかに不正解だった事を理解するディアナ。


(ああ、やっぱり読み間違ったのね。友達とはある程度距離を取って付き合って! 万一裏切られてベッドで泣き暮らしゴロゴロするぐらいなら最初から信じるのは自分カレンだけにして! って意味かと思ったのに……)


 しょんぼりしたディアナを見て、カレンは泣き笑いのような表情になりました。


「…………もう、アナタって御方は……はぁ。もうそれで良いです。何かあれば私が全力でお守りしますから」

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