第43話 商人の護衛依頼 ~カイトとアンネ~

「俺はE級冒険者で剣士のカイトだ。んでこっちが同じくE級冒険者のアンネ」


「法術士のアンネよ。今日はよろしくね」


 王都東門で合流した商人の馬車にはすでにライラたち以外にも護衛として雇われた2人の冒険者が来ていた。今回ライラとニナが受けた依頼は、王都から歩いて2時間弱の所にあるという村まで商人を送り届けるといった護衛依頼だ。


護衛依頼は距離やかかる予定日数によって難易度が変わったりする。日帰りで戻って来れるものであればE級以上の冒険者が受けることができるが、長期に渡って請け負うものや治安の悪い場所へと赴く商人の護衛ともなればC級以上と決められている。


今回はカイトとアンネ、そしてニナが護衛の依頼を受けるのが初めてということもあり2つのパーティが共同で請け負う事となったようだ。


カイトやアンネに続き護衛対象の商人も自己紹介をする。頭にターバンを巻いた小太りのいかにも商人といった感じのこの男は名前をマッツというらしく、マッツは「本日はよろしくお願いします」と頭を下げると冒険者たちにも丁寧に対応していた。


それからニナとライラも自己紹介を済ませるとカイトが作戦会議をするからと3人に集合をかけた。


「いいか? 今日は俺が指揮を執る。俺は王都騎士学校を首席で卒業したんだ。そこらへんのD級やC級の冒険者にだって負けないつもりだ」


「そうね、カイトに任せておけば間違いないわ」


カイトの提案にアンネが同意する。2人はどうやら同じ村出身の幼馴染らしく、いつか2人で冒険者になろうと誓い王都に出てきたようだ。村で生活していた当時からカイトは神童と呼ばれていたらしく、剣の腕も村一番だったようで村の畑を荒らすウルフやゴブリンを何度か討伐したこともあるようだ。


「うむ、私もニナもそれでかまわない。ではよろしく頼むぞリーダー」


「あぁ、任せておけ」


新人冒険者のカイトとアンネは戦神と呼ばれるライラのことを知らないようで、一国の王ですら一目置くという戦神ライラ相手にも恐縮することはなかった。またライラも自分に対して気兼ねなく接してくる冒険者が珍しかったため無礼なカイトの態度も新人冒険者だったころの自分を思い出すことができ悪い気はしなかったようだ。


「よろしくお願いしますです、りぃだぁさん」


「・・・・」


握手をするライラとカイトを見て自分もカイトと握手をしようと右手を差し出すニナであったが、そんなニナを冷たい目で一瞥するとカイトは護衛対象である商人の所へ行ってしまい何やら話し込んでいた。ニナが差し出した手をすぐには引っ込められず持て余し俯いていると、その手をライラがギュッと両手で包み込むように握った。


「手が冷たいな。ニナ、初めての護衛依頼で緊張はないか?」


カイトに握手を拒否られてしまい気落ちしているニナに対し、慰めの言葉をかけるわけでもなくライラはただニナの手を握り微笑んだ。時に慰めの言葉というのはかけられた相手をさらに惨めな気持ちにしてしまうことをライラは知っているのだ。


「大丈夫なのですよライラちゃん。今回の依頼もカンペキにこなしてみせますですから!!」


ニナは必死に笑顔を作ると、自分の胸の前で拳を握りフンッと鼻息荒く言った。ライラは笑いながらそんなニナの頭を励ます様にゴシゴシと乱雑に撫でるがニナは少し迷惑そうに乱れた自分の髪の毛を手で直していた。


「・・・・ごめんね」


後ろでそんな3人のやりとりを見ていたアンネがライラとニナに小声で一言謝罪すると、彼女もカイトと商人がいる馬車の前方へと走って行ってしまった。それからライラたちは商人を守るため、商人が操縦する馬車の前方にカイトとアンネが、後方にライラとニナが配置された。


「お前たち、アンネが索敵魔法を持っているからって油断するんじゃないぞ? 特にチビ、お前には期待もしていないが俺たちの邪魔だけはしてくれるなよ!?」


「は、はいなのです。頑張りますです!!」


「ふん、獣人風情が。頑張ったところで何ができるってんだ」


カイトはかなり獣人に対して差別意識があるようだ。カイトから感じられるこれは差別などという生易しいものではなく恨みに近い感情だとライラは察する。以前カイトが獣人に何かされたのかもしれないが、その恨みをニナにぶつけるのはお門違いも甚だしい。


この先、あまりにもニナへの八つ当たりが続くようなら一言言ってやらねばならないと思うと同時に、カイトたちがヴィエラやマスター殿と出会うことがなくて良かったと安堵していた。ヴィエラがこの場にいたら、ここまでニナを傷つけたカイトは今頃血だるまになってその辺に転がされていたに違いない。


また、温厚な自分でさえ少しカイトに腹を立てているこの状況では、あの自分を世界最弱と公言し面倒事や揉め事を人一倍嫌うマスター殿でさえキレて無茶な事をしかねないだろう。


   ────そう考えると私は彼らに比べれば随分と温厚であるな。


そんなことを考えながら一人笑っていると、前にいるカイトの叫び声が響いた。


「全員、武器を構えろ! 魔物だ!!」


前方にはトレントという木の魔物が3体、武器を構えるカイトたちと対峙していた。また、そこに護衛対象である商人の姿はなく、どうやら彼はテントで覆われた馬車の荷台に隠れているようにとカイトから指示されたようで、荷台に商人の気配が感じ取れた。


「この野郎!!」


カイトは背負っていた大剣を鞘から抜くとトレントに斬りかかって行き、3体いるトレントのうちの1体を斬りつけ倒した。


「へへっ どんなもんだよ!」


残りの2体にも同じようにカイトは大剣で斬りかかる。だが、トレントも黙っておらず鋭く尖らせた自分の枝を向かってくるカイトにカウンターのように合わせて突き出した。


「ぐっ!!」


カイトは身を捻り心臓を狙ったトレントの攻撃を左腕で受けてしまいダメージを負い出血した。騎士学校を首席で卒業したといってもこの程度なのかとライラは少しガッカリして見ていると、カイトはダメージを気にすることなくそのまま残った2体のトレントを斬りつけ倒した。


「痛そうなのですよ・・・・」


トレントの鋭い枝で貫かれ出血しているカイトの左腕を見たニナは両手で目を覆いながらカイトを心配していた。普段ライラと一緒に行動しているニナは、戦闘で多少ケガすることはあってもここまで酷いケガを見たのは初めてだった。そのため大量の出血をしているカイトを見ていられず両手で目を覆っていたようだ。


「大丈夫かリーダ―殿? 傷薬があるから使ってくれ」


ライラは急ぎ自分の腰に巻いたポーチ型のアイテムボックスから傷薬を取り出しカイトに差し出す。だがカイトは掌をライラに向け無言で「傷薬は必要ない」とばかりに制止し、それと同時にアンネの方へと視線を移した。


「任せて!!」


アンネは杖を軽く横に振るとカイトの左腕を緑色の光が包み、あっという間に傷を治してしまった。左腕の傷が治ったカイトはダメージが残っていないか確かめるように左手でグーパーを繰り返していた。


「よし、問題ない。先を・・・・って、何をしているんだ!?」


「あ、はい。魔物さんが落としたアイテムを回収してますですよ。とれんとが落とす葉っぱからは毒消し草や気付け薬が作れると習ったのです」


「ふんっ 浅ましい獣人には戦闘後のゴミ拾いがお似合いだな」


そう言うとカイトは剣を背中の鞘に納め馬車の前方へと戻って行った。ニナはカイトの言葉を気にすることもなくトレントが落としたアイテムをもくもくと回収している。そんなニナをライラも手伝い全てのアイテムを回収し終えると、2人は馬車の後方で辺りを警戒しながら引き続き商人の護衛を続けた。

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