第42話 狩猟際の準備と護衛依頼
俺は今、狩猟際で出すコーヒーを作っている。もちろんレイチェル王女から言われたことを忘れたわけではない。忘れたわけではないのだが、彼女が言ったのは『くれぐれも泥水を出さないように』ということであってコーヒーを出してはいけないとは言ってなかったはずだ。
コーヒーはただ色が黒く苦いだけで泥水なんかではないのだから問題は無いだろう。
と、いうのは屁理屈でもちろん俺にだって王女の言いたいことはちゃんとわかっている。だから俺は苦くないコーヒーを出すことにした。ようするにアレンジコーヒーというやつだ。
まずはこのたっぷりのホイップクリームを乗せた『ウィンナーコーヒー』だ。
材料はコーヒー(中挽き)180mlにザラメ糖を小さじ1~2杯、生クリーム50mlにグラニュー糖5g、最後にココアパウダーは適量といったところだろうか。
作り方はボウルに生クリームとグラニュー糖を入れ泡立て器でよく混ぜ、七分立てホイップクリームを作る。この七分立てのホイップクリームはツノが立たず、持ち上げた時もったりと重いのが特徴だ。
次に、豆を中挽きにしコーヒーを抽出し、カップに注ぐ。
そしてそれに最初に作ったホイップクリームを浮かべ、仕上げにココアパウダーをふりかければ完成だ。
俺は味見をするためできたばかりのウィンナーコーヒーが入ったカップを手に取ると、先に少しコーヒーの上に浮かんでいるホイップクリームスプーンで掬って飲んでみる───うん、問題ない。
次に注がれたコーヒーとホイップクリームをスプーンでかき混ぜながらウィンナーコーヒーを飲むとコーヒーとクリームが混ざり合いクリーミーで甘く濃厚な味が口に広った。 これならこの世界の人たちにも受け入れられるだろう。
こんな感じで俺はウィンナーコーヒーの他にも甘いチョコレートソースを使ったカフェモカやコーヒーをカクテル風に仕上げたカフェシェケラート、以前この店でも出したハチミツを使ったハニーコールドやバニラアイスを使ったコーヒーバナナシェイクなども作り味見した。
どれもちゃんと甘みを感じる事が出来て、これなら普通のコーヒーとは違いこの世界の人たちにも親しめるはず。俺はこの日、これ以外にもたくさんのアレンジコーヒーを作ったが狩猟際当日はこの中から厳選し3~5種類のアレンジコーヒーを出す予定だ。
そして次に考えるべきは、王女様から期待され依頼を受けたメインとなる菓子だ。今まで菓子は俺のスキルで出していたため露店では菓子をスキルで出すことはできないためどうしたものかと悩んだが、それは以前俺が新しい能力であるスキルポイントでレンタルした車が解決してくれた。
どうやら俺がポイントを使ってレンタルした車にはこの店と同じ力があるみたいで車内でのみスキルで菓子を出すことができた。車から外に出てしまうと菓子を出すスキルは発動しないようだったが、俺がレンタルした車の中で使えるなら問題ないだろう。
ライラからは「こんなものに乗って走っていたら悪目立ちするから」と注意を受け今の今まで使う事はできなかったが狩猟際では車を動かすわけではないから問題ないだろう。一応冒険者ギルドの昇級試験も兼ねてはいるとはいえ『祭り』だあることには変わりない。だったら目立ってナンボだ。
それに各地からたくさんの人が集まる王都で開催される祭りはコーヒーを広めるチャンスでもあるのだ。このチャンスを活かせなければ、また当分『泥水』と揶揄されることとなるのは必至───ここが正念場だ。
俺はその日、商業ギルドの許可待ちのため営業できない店の玄関に『準備中』の札をかけると一日中狩猟際で出すためのコーヒーと菓子に向き合う事にした。
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一方その頃、甘味屋を出て冒険者ギルドへと向かったニナとライラであったが、2人は冒険者ギルドでたくさんの冒険者たちに囲まれていた。王都の冒険者たちの間では超が付くほどの有名人であるライラが初めてとった弟子の話題で持ちきりだったらしい。
「戦神、まさかアンタが弟子をとるとはな!」
「まったくだ。誰とも組むことをしなかったアンタがまさか弟子を取るなんてな」
「弟子を募集していたなら私にも声をかけて欲しかったわ」
「俺だって戦神の弟子になりたかったんだぞ!!」
「それで、その獣人の子供は将来有望なのか?」
矢継ぎ早にライラはギルドにいた多くの冒険者たちから質問攻めにあっており、ライラと一緒にいたニナも少し居心地が悪そうにしていた。ニナとしてもライラが凄い事は十分にわかっていたが、これほどまでに多くの冒険者から羨望の眼差しで見られるライラの弟子が自分でよかったのかとライラにも他の冒険者たちにも少し申し訳ない気持ちになっていた。
「あぁ、ニナは将来有望な期待の新人だぞ。あと数年もすれば皆にもニナの凄さが理解できるであろう」
「・・・・ライラちゃん」
自分の事のようにニナを自慢するライラを見てニナはさらに恐縮する。ここに来るまでたくさん依頼をこなし10歳の自分が魔物討伐だってしてきた。だがそれはライラが一緒にいたからできたことであって自分一人の力などたかが知れている。
そんな自分がライラの期待に応えられるような冒険者になれるのかと不安に思っていると、ライラの手がニナの頭を軽く撫でた。
「大丈夫だニナ、そなたならいずれ立派な冒険者になれる。だから胸を張るのだ」
「わ、わかりましたです。今日から更に頑張って頑張りますです」
「うむ、その意気だ!!」
その後、2人を囲んでいた冒険者たちをかきわけながら冒険者ギルドを出ると2人は今回受けた商人の護衛をするため集合場所となっている町の東門へと向かった。門には既に商人の馬車が止まっており、頭にターバンを巻いた依頼主の商人と15~16歳くらいの男女が2人待っていた。
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