テーマソング

「みんな聴いてくれ」


 と切り出したのは無味無臭のリーダー。ナポレオン・ボナパル子である。

 いつものように吉野に集まっていたメンバーだが――


 リーダーは続ける。

「神聖天使のブラが解散し、我々無味無臭が結成されてそこそこ経つが――充電も済んだ事だし、そろそろ何かを始めないか?」

(あ、今までって充電期間だったんだ……)

 とは声に出さない香織。


「私としては新しく何かを始めるにあたって、我々のテーマソングを作るのが良いと思ったのだが?」

 とリーダーがメンバーを一望すると、最初に反応したのは香織。

「いいんじゃないかな? 私達ってもともと音楽やるために集まったメンバーなんだし、私達の色を出すのにテーマソングはもってこいだと思う」

 という香織の意見に全員が無言で頷く。


 こうしてテーマソングを作る事なった4人だが――

「ではテーマだが――我々の色。或いはコンセプトとはなんだと思う?」

 リーダーの質問にスッと片手を上げたのは童子。

「ワラジか。頼む」

「うん。やっぱりグループ名が『無味無臭』っていうからには、噛んでも味がしない……影が薄いってのが僕達の売りだと思うんだけど?」

 これにリーダーは一つ頷き。

「なるほど。確かに我々は学校の休み時間に誰とも話さず、前の席の奴の背中と勝手に会話している事から『人間休み時間』と言われているからな?」

「どーゆーエピソードッ! リーダー学校でそんな悲しい事になってるのっ!?」

 目をひん剥いて驚く香織だが、リーダーはゆっくりと目を瞑り。

「ああ、確かに悲しいな。イマジナリーフレンドであるはずの前の奴の背中にシカトされるのは流石の私でも堪える……」

「ただでさえシカトされてる状況でイマジナリーフレンドにもシカトされるって斬新過ぎるでしょっ!」

「まあ、でもイマジナリーフレンドはまだ授業中って事なんだろうな。……と自分を無理矢理納得させている」

「人間休み時間ってそーゆー意味だったのっ! いや悲しいよ! もっと違うテーマで曲作ろうよ」


 っという事なので次に口を開いたのは三世だった。

「えっと、じゃあ私達の特色として『色物』はどうですか? 私達って異世界人、実年齢24歳、バ美肉おじさん、自走するちくわと全員色物女子高生じゃないですか?」

「いやあの……それ色物っていうよりどっちかって言うと偽物だと思うんだけど私いがぃ――自走するちくわッ!?」

 と苦言を呈する香織だが、リーダーは驚愕の表情を浮かべ。

「偽物の女子高生だとっ!? じゃあ私達は男子高校生だったのかっ!」

「なんで『偽物の女子高生=男子高校生』になるのっ?」

「じゃあ、偽物の女子高生=自走する男子高校生?」

「男子高校生は普通自走するでしょっ!」

 と素早く童子にツッコミを入れる香織に、間髪を入れずに三世。

「あ、なら自走するちくわと会話する男子高校生の背中と会話するちくわっていうのはどうですか?」

「どうですかも何も結局ちくわ! ただの悲しいちくわじゃん!」


 ――なので。無味無臭のテーマソングは「悲しいちくわ」になった。

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