バンド

 方向性の違い――


 良くバンドの解散理由で挙がる言葉である。尤も厳密に言えば音楽の方向性の違いなのだが細かい話はいいとして、解散理由が本当に方向性の違いなのか、それはあくまで建て前なのか……? それは解散する当のバンドメンバー達にしかわからない事である。


 さて、そんな話はさて置いて。メンバー全員が上下の黒いジャージを着ている、ユニフォームとしているガールズバンド「ブラック・ジャージ・エンジェルズ」略して「ブラジャー・エンジェルズ」そして世間ファンには何故か「天使のブラ」と呼ばれているガールズバンドは音楽の方向性がバッチリと合っていた。寧ろ合い過ぎてメンバー58人全員担当楽器がドラムという……それくらい全員が同じ方向を向いていて全員友達が0人だった。

 しかしあまりにも同じ方向を向いていたせいか、友達からのアドバイスもなかったせいかドラムだけ58人居ても仕方がないという事に気が付いたのは結成してから3年後の事で、メンバーは急遽ドラム、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、ドラムを追加で募集するのだった。


 こうして応募してきたのが4名の女子高生で、都合良く全員楽器と好きな力士がバラけたので全員を採用する事にした。そしてその新メンバーが――


 1人目はどこにでも居る普通の女子高生「納豆野 香織」で担当はヴォーカルである。


 2人目は三つ編みメガネで、どこにでも普通に居る系ユーチューバーっぽい少女「座敷童子わらこ」で担当はベース兼ドラム。


 3人目はお姫様カットが似合う、どこにでも普通に居るアレキサンダー大王っぽくない美少女「ナポレオン・ボナパル子」で担当はギター兼ドラム。


 そしてラスト4人目はどこにでも普通に居るアレキサンダー大王イカっぽい美人女子高生「ルパン三世みつよ」で担当はドラム兼寿司屋。


 こうして香織、座敷童子、ナポレオン、ルパン三世みつよの4人を加えて新たに生まれ変わった「新生ブラック・ジャージ・エンジェルズ」もとい「神聖天使のブラ」はナポレオン・ボナパル子をリーダーとし、元いたメンバー58人は全員ドラム担当からマイクスタンド担当に転向した。


 そしてその後、実際にライブをしてみたところ、やはりというべきなのかマイクスタンドが58本あったとしても、結局マイクが57本しかなければどうしても何もする事がないメンバーが1人出てしまう。なのでライブは失敗に終わり、神聖天使のブラは事実上これ以上の活動は不可能となり解散を余儀なくされた。


 とまあ要するにバンドとは方向性が違っても解散するし、方向性が合致し過ぎてもやっぱり解散する――何事もほどほどが良いという話だった。

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