09深夜は変なスイッチ入る
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ハルミヤ地方 ロゼルトタウン ガンジャ宅 ガンジャの部屋
淡く光の点った部屋の中、ガンジャは先程と変わらずベッドに横たわっていた。
左腕を天井に掲げる。包帯の巻かれた腕が黒々と見える。昼間よりは、軽くはなったが、まだ違和感は残っている。
スルスルと包帯を解いて行く。
封呪が解かれた為か、腕がドクドクと脈打っている。ナイフを突き立てた傷跡が痛々しく見えた。
「……全然、呪い抜けない……カッター、カッター………」
ベッドから起き上がり、机を漁る。書きかけのノート、歪な消しゴム、芯の折れたシャーペン……ややあって、見つけたカッターナイフの刃をキチキチと出して行く。
錆びた刀身が蛍光灯の淡い光を鈍く反射した。
チャキリ…と音を立てて、軟い肌に刃を当てる。そして、勢い良く引く!
プシッと音を立てて、黒く染まった血がガンジャの顔を汚した。
ポタポタと床に血が垂れる。禍々しい瘴気が腕からノロノロ上がる。
「やっぱり、濃いなぁ。しばらくは、このまんまかな?」
キャスター付きの椅子を引き、腰掛ける。
ギィ…と、背もたれの軋む音がした。左腕を机の上に乗せ、右腕で杖を弄ぶ。
出した呪いは、封印しなければならない。呪いは調合次第で、薬にもなるのだ。
ガンジャの血は、呪いを中和することが出来る。
しかし、万能では無い。確かに、相手の呪いは中和できるが、その呪いはガンジャの腕に宿ってしまう。それに、中和と言えど全ての呪いを中和する事は出来ないのだ。
段々と色素が薄くなって行く腕を見やる。そろそろ良いか。
「封印魔法 ラ・ベーラ」
小さな魔法陣が左腕の上に展開される。
ノロノロと上がっていた瘴気が、魔法陣に吸収されて行く。みるみるうちに、ガンジャの腕は、元の肌色に戻った。刃物の傷が痛々しいほどの赤を主張する以外は。
一方、呪いの方は、黒々とした球に姿を変えていた。スーパーボールほどの大きさのソレを、回収し、棚に置いてあるガラスの瓶にしまった。
消毒をして、包帯を巻く。久方ぶりの作業は、疲れた体にはかなりの刺激だ。
包帯を巻いた腕を曲げたり、伸ばしたりする。うん、解けない。ガンジャは別に傷の治りが早い方では、無いので暫くはこのままだろう。
回復魔法で治しても良いが、万が一体に呪いが残っていた場合、傷口が無いと呪い抜きが出来なくなってしまう。その為、ガンジャはあまり回復魔法を使わない。
そもそも、大して回復魔法は覚えてはいないが。
スマホを見る。現在時刻は、夜中の11時半。
今、学校は春季の長期休暇中のため早起きする必要は無い。が、夜更かしをするのも疲れた体には、酷である。
ガンジャは、大人しくベッドに潜り込んだ。
枕元に置いてあるまん丸なゴブリンを手元に持ってくる。
コレは、ロマネスコが作ってくれたまん丸モンスターシリーズだ。今は、リヴァイアサンまでいる。
ゴブリン以外は、先の呪いを収納している棚の上段に仲良く収まっている。
電気を落とし、目を瞑る。
今日は、色々と起きた。本当に。
ギルドにライセンス登録をしに行ったら、酔っ払いに絡まれ、その仲間だと言う男の呪いを解いた。しかも、彼らは勇者一行だという。家に帰って、ロマネスコと食卓を囲み、寛いでいると勇者が押し掛け、ガンジャをパーティーに勧誘して来た。
こんな濃密な、1日を体験した人間きっとこの世に彼だけだろう。
意識が薄くなって行く。ぼんやりとした思考の中、ガンジャはウトウト考える。
このまま旅に出るのも悪くはない。
そうすれば、学校に行かなくても良い。2人きりの家の広さにいちいち辟易しなくても良い。あぁ、でもロマネスコを置いて行くのは気がかりだ。
キュッとまん丸を抱き締める。
まぁ、でも明日ゆっくり考えれば良いか。
きっと、きっと、あの碌でなし達はオレを捨てたりしないだろうし。
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