10仮決定は良くも悪くも殆ど確定みたいなもんである
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ハルミヤ地方 ロゼルトタウン ガンジャ宅
翌朝である。
昨日の疲れも手伝ってか、いつもより快眠であった気もする。
スマホの液晶を見る。表示時刻はAM8:37。
長期休暇中の起床時刻であるならば、なかなかに上出来だろう。
のそりとベッドから起き上がり、リビングへと歩く。
気だるい1日が、今日も始まった。
さて、リビングであるがダイニングテーブルの上に一式の朝ごはんセットが置かれていた。
伏せられていた茶碗を手に取り、炊飯器の中を掻き回す。
保温されていたご飯が控えめに盛られていく。
「……いただきます」
モソモソと朝ご飯を食べていく。はて、ロマネスコはどこに行ったのか?昨日の男達はどうするか?などを悶々と考えながら箸を動かす。
ふと、ガチャリと玄関の扉が開く音がした。
「おぉ、ボウズ起きたんか」
「おはよう、ロマ兄。……どこ、行ってたの?」
聞けば、「ちょいとね」とだけ返し洗濯物を干しに行った。
ちょいとね……何か危険なことに巻き込まれていなければ、良いのだが、心配である。
彼は、ゴブリンとは言え人間並の知能を持ち、G並…いやそれ以上の生命力を持つ死霊族だ。ガンジャが心配したところで杞憂にしかならないが、大切な人を守りたいという気持ちは万人に共通するものだ。
朝ご飯も食べ終わり、手持ち無沙汰に自室で時間を潰しているとピーンポーンと来客を告げるチャイムがなった。
昨日に引き続き、嫌な予感はすれど不快感はない。
きっとあの3人なのだろう。ガチャリとロマネスコが扉を開けた音、そして
「ボーーズーー、おきてっかぁあ?」
酔っ払いの声だ。まだ朝だというのに、おそらく平常運転なのだろが四六時中酔っ払っているとは……深夜の決意を無しにしたいような気がしてきた。
トントンと階段を降り、ニコラスの前へ顔を出す。
「おはようございます……えっと、に、ニコラス…さん」
「うぃ、おっはー」と、ケラケラ笑いながら酒を流し込むニコラスの喉仏を見る。やはり、ラッパ飲みがデフォルトなのだろうか、周りの2人に止める気配は一切無い。
ふと、ニコラスが口を開く。
「んでよぉ、ボーズー?昨日のありぇ、考えてくれたぁ?❤️」
ふにゃふにゃの滑舌で、それなりに重要なことを聞いてくる。
どろりと濁った左目とアルコールで潤んだ目がバチリとガンジャの沈んだ双眸を捕らえる。
「とりあえず、上がってください……あの、話は中で……し、ますから」
所変わってリビングのふかふカーペットにて。
昨日と変わらない布陣、いや、ロマネスコがいない事を除いては、昨日と変わらない。
「んでんでぇ?どーなのよ?おれらと来てくれるん?」
「……そ、れは……まだ確定は、してないデス……」
「ふーん、ま、そりゃそーよな。昨日の今日で決まるもんじゃなーよな」
湯呑みを弄びながら、ニコラスはガンジャを見る。
ガンジャは目を逸らしつつ言った。
「あ、あの……ホント、ワガママなんですケド……ホント、申し訳ないんですけど、仮の……仮の編入とかって……「いいよぉん」、やっぱ、ムリ……って!え、良いんですか⁈」
「だぁって、別にドラ◯エとかF◯みたいに世界の危機迫ってるわけじゃねーしぃ」
「ねぇ?」と両隣の男2人に確認を求める。
「まぁ、有事って訳じゃ無いしな。勧誘は、俺達の我儘だ」と、モモヤマ。
「えぇ、私たちの一存だけで、ガンジャさんを危険に晒す事は出来ませんから」と、クラップス。
「てな訳で、ボーズ改めガンジャ、テメーには選択肢がある訳だ。さて、どーすん?」
ニヤニヤとコチラを見やる酔っ払い。ほとんど
答えなんて、出ているのにわざわざ目の前でぶら下げて食いかかるのを待つ。全く悪趣味な男だ。
「……分かりました。パーティー加入の話し、受け入れます。……まぁ、仮ですけど……」
ニコラスを見る。明らかに顔が緩んでいる。
「んっふふ〜、そぉこなくっちゃよぉ?ボォズゥ?」
すると、ガチャリと扉の開く音。見やるとそこには、顔を俯けたロマネスコ。
「!ロマ兄、居たんだ‼︎……ねぇ、オレねこの人達と……「全部聞いてた…おめっとさん……」
少し悲しそうに、ロマネスコはガンジャを見上げる。
「うん、ありがとう」ガンジャは、はにかみながらロマネスコを見る。
「あ、学校に休学届出さないと……」
「いや、まだ良いだろ」
遮ったモモヤマの声。
何故、と顔をそちらへと向ける。
「何も、無期限の仮って訳じゃぁねェ。この春休みの終わりまでだ。そん時、テメーが正式に入るかを決めてくれりゃ、休学は間に合うだろ」
「入りもしねーのに、休学はお笑い種だろ?」と、家の中だからか、気を遣ってペロキャンを舌で弄ばせながらモモヤマは言う。ふむ、確かに一理ある。
「……そう、ですね。すみません。少し、先走りすぎました。……となると、仮編入は、1週間程度……ですかね?」
「ほぅ、なら十分だな……ニコ、契約書出しちまえ。…いや、クラック、テメーのが良いわ」
「はい」と差し出された、契約書。教科書の様な達筆過ぎる文字がお行儀良く並んでいる。
そこに、サラサラと名前を書く。
「……はい、これで契約は完了です。ありがとうございました、ガンジャさん」
ふわりと微笑んだクラップスはその麗しい金髪と相まってまるで美術品の様に美しかった。
「んーじゃ、また明日なぁ。迎えいくわぁ」
と、フワッフワの言葉を残して勇者達は帰って行った。
残されたガンジャとロマネスコ。デジャヴを感じるが、まぁ気の所為にしておく。
「ボウズ、決めたんだな」
「んー、まぁ仮……だけどね。ちゃんと、1週間見てくるよ、あの人達が信頼できる人達か……」
「おぉ、そうしろそうしろ。しばらく、寂しくなるな」
「大丈夫だよ、1週間なんて、すぐだもん」
ニコリと、笑ってみせるがガンジャも寂しいものは寂しい。なんせ、復活させてこの方ガンジャとロマネスコは離れたことが大して無いのだから。
親代わりになって、育ててくれたロマネスコと1週間ではあるが、別れることになる。まだ、成熟しきっていない精神には来るものがある。
「ま、ボチボチやれよ。道中、食中毒でくたばるなんざ、バカな真似晒すんじゃねーぞ」
「ちょくちょく思ってたけど、ロマ兄ってオレの事なんだと思ってんの?」
「ハナタレ小僧」
「オレそこまで、子供じゃ無いから!あと、食中毒でくたばるって何?オレ適正属性毒だよ?むしろ、バフだよ食中毒」
「んじゃ、アレだ……あのォ、トロイの木馬……」
「インターネットウイルスじゃん、ソレ。仮に、現代にトロイの木馬復活しても検問所で1発お縄だよ」
顔を見合わせ、ケラケラ笑う。
「ッハァーー‼︎そんだけ、ツッコミ出来んならテメーどこでだってやってけるぜ?」
「そんなN○Cみたいな事やってたの?今。めっちゃお別れムードだったじゃん。弱シリアスだったじゃん」
「……とりあえず、くたばってくれるなよボウズ……
「うん、気を付ける。……大丈夫だよ、これでも実技は優等生だもん」
なんて強がりを言ってみても、ロマネスコには一切効かないのをガンジャは知っている。ロマネスコも、ガンジャがここで引き留めたとしても聞く様なタマじゃない事を知っている。
「んじゃ、用意しとけよ。明日ってのは、存外早く来るもんだぜ」
「うん、ありがとう」
「じゃ、用意してくる」と、部屋に戻っていくガンジャを見送り
「はぁ、若いってのは眩しいね……
ロマネスコは独りごちる。
快晴の青天井が何処までも広がる、とある春の日であった。
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