08スカウトは突然に

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ハルミヤ地方 ロゼルトタウン ガンジャ宅 リビング


リビングにある、42Vの液晶テレビ。

今は、電源が落とされ3人と1匹の姿を暗い画面に浮かべている。

ふかふかのカーペットが敷かれた上に置かれているローテーブルには、ロマネスコがスーパーで買ってきた造花がお行儀良く収まっている。そして、造花を囲う様に置かれた湯呑みからはユラユラと湯気がのぼっている。


こちらに気付いたロマネスコがガンジャを手招きする。

「おぉ、ボウズ。来たかホレ、座んな」

「う、あ……う、うん」

「そぉんな、怯えんでもらぁいじょおぶらぉ〜」


誰のせいだと⁈なんて言う度胸など、ガンジャには無いので愛想笑いのままロマネスコの隣に座る。

目の前には、酔っ払いと喫煙者、そして美男が三者三様に座っている。

互いに睨めっこをして、約数分。体感では数時間経った頃、ニコラスが口を開いた。


「さてね、いい加減本題はいんべ。……ボーズ、おれらのパーティーに入ってくれ!」


ガバッと音がする程勢い良く頭を下げるニコラス。モモヤマもクラップスも頭を下げている。

ガンジャの頭の中は困惑一色に染まり切った。


今、ヤツらはなんと言った。

「パーティーに入ってくれ」?

会ってまだ、7時間。なんなら、無礼にも彼らに背を向けて逃げ帰った人間をパーティーに勧誘すると言うのか?


気狂きちがいなのだろうか?ガンジャは、酷く混乱した。


「あっわわわ‼︎‼︎い、一旦、頭‼︎頭上げてください‼︎」

慌てて頭を上げさせる。白濁に染まった瞳と目が合った。

「な、なんで……なんで、自分なんかをパーティーに?魔導士なら、自分より凄い人なんかごまんといまス……ケド……?」

「テメーじゃなきゃ、駄目だ。……呪い、解いてくれただろ?」


モモヤマが言う。確かに、ガンジャは彼の呪いを解いた。しかし、ソレとパーティーがどう結びつくのか。


「そ、もそも………呪いを解くなら、教会でも良かったでしょう………?」

「教会には、行ったのですが……解けないと言われてしまって……」


そう言うのは、クラップスであった。


「解けないって……?」

「呪いの進行が速すぎたんです。コレを解けるのは、大聖堂の司祭か、黒魔導士位しかいないと仰られて……」

「でも……そしたら、自分以外でも居たでしょう……?」


「誰も、誰も解いちゃくれなかった」


ニコラスの沈んだ声。


「おれたちが、こんなナリしてんのも、あんだろーがよ。……ソレでも、アイツらは解こうとしなかった。メリットが無いんだと」

「ッ……それは……」


魔導士のコミュニティはかなり閉鎖的である。

昔々の魔女狩り以降、魔導士は普通の人間から離れて生きてきたらしい。今は、和平協定を結びお互い不可侵を約束している。

だが、古の血を深く継承し続ける一族はそれを赦していない。

一部魔導士の過激派は、未だ怒りの炎を激らせていると聞いたことがある。

そして、前述した通り魔導士のコミュニティはかなり閉鎖的だ。

身内以外に対して、いや、身内に対してもかなり排他的なのだ。故に、道すがらの魔導士への頼み事というのは、大成するなど殆ど無いのだ。


「お前さんだけなんだワ、おれについて来てくれたん」

「……あんなに、必死に腕引いてくる人、見捨てるわけないでしょ……」


「後世だ‼︎頼む、おれたちのパーティーに入ってくれ‼︎おれは、お前さんだから頼んでる。お前さんが良いから頼んでんだ」


「……すみません、待って貰えますか……?少し、考えたくて……」



結論は、保留であった。


ひとまず、勇者一行は近くのホテルに部屋があると言ってホテルへと帰って行った。



ガンジャとロマネスコだけが残ったリビングには、静寂が残った。


「ボウズはスゲーな、見知らぬ人間を助けられんだ」

ロマネスコの声が静寂を破る。

「オレは、凄くないよ……人として、人間として当たり前の事をしただけだもん」


「ねぇ、ロマ兄。もし……もしも、オレがあの人達について行くって言ったら……止める?」

「いんや、止めねーよ」


ガンジャの問いに応えるロマネスコの静かな声。


「他でもない、ボウズが決めた事だ。止めやしねーさ」


「でもな……」そこで、言葉を区切る。

ガンジャは不思議そうにロマネスコの顔を見た。


「結論を、流されて来めんだったらオイラは止めるぜ。冒険ってのは流されてするモンじゃねーんだ。ボウズにゃ、死んでほしくねーしな……」

「うん……」


「オレ、そろそろ寝るね」と、ガンジャは部屋に戻って行った。



残ったロマネスコは、写真立てを見た。

今までのガンジャの軌跡が並んでいる。スゥっと1つの額縁をなぞる。

まだ、ロマネスコがいなかった頃のガンジャと両親の3人が並んだ写真だ。哀しげに、愛おしげにその写真を見る。


「なあ、旦那方よ……ボウズは……星八せいやのヤツぁ、立派に育ちやしたぜ……アンタらが出来損ないだって、捨てたあのガキが……」


額縁から指を離し、拳を握る。


「だから、だからよぉ……たまにゃ、顔なりなんなり、見せに来いよ………なぁ…?アイツ、行っちまうかも知んねーぞ?アンタらの事も、何もかも捨て去って……」


時計の針は、11から少しはみ出している。

欠伸を零して、目を擦る。グッと伸ばした体からコキコキと音がした。


「さて、オイラも寝るかね」


家の明かりが消え、闇に支配される。

横たわった家々が静かに寝息を立てる町の背景に、小さな流星がキラリと走った。

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