06醤油と出汁はおふくろの味

ハルミヤ地方 ロゼルトタウン 寂れた繁華街


電車を2本乗り継いで、あの悪夢から逃れる。

見慣れた景色が高速で眼前を流れていく。ガンジャは安堵した。ここまで来れば、奴らの毒牙にかかる事はないだろう。

目的地に着いたので、電車を降りる。

改札が間抜けな音を鳴らして、両開きの口をガパリとあけた。



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ハルミヤ地方 ロゼルトタウン ガンジャ宅


なんの変哲もない、何処にでもある一般民家のドア。鍵を差し込み、ガチャリと回す。ホワっと暖かい空気、紛れもない我が家の匂いにガンジャを絡め取っていた緊張や恐怖、その他諸々の感情の糸がスルスル解けていく。


「た、だいまぁ」

「お、おかえりぃボウズ。生きて帰って来れたんか‼︎」

「ちょっと、街行っただけだよ?死なないってば」


リビングから出て来た、フリフリエプロンを着けたゴブリンに返事を返しつつガンジャは自分の部屋へと戻る。

さて、さっきのゴブリンについてだが……彼は、元々死体であった。


勘の良いガキの皆様なら、お気付きだろうが彼はガンジャが死霊術ネクロマンシーにて蘇らせた死霊の1人なのだ。果たして、ゴブリンを1人と数えるのは如何なモノと言うものだが、気にしない気にしない。

ガンジャの死霊術ネクロマンシーによって蘇った死霊には確固たる意思や感情が宿る…と何時ぞやに書いたが彼も例に漏れず意思を宿した。しかし、稀有な事に彼はガンジャの元に身を寄せている。なんなら、ガンジャ宅の家事の一切を請け負っている。ガンジャの両親も、家事をやってくれるのなら……と、全てをゴブリンに投げ渡して共働きの日々である。それから、7年ほどガンジャとゴブリンは2人屋根の下、仲睦まじく暮らしているのだ。


ガンジャが着替えをしていると、下からゴブリンの呼ぶ声。

「オーイ!ボウズ、飯にすんぞー」

「はーい」


返事を返し、下へと降りる。

醤油と出汁の匂いがガンジャの鼻腔をくすぐる。今日の夕飯は、


「今日は、坊主の好きな肉じゃがだぜ」

ゴブリンの笑顔が、ガンジャの心をゆるりと溶かす。


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少年とゴブリンが向かい合って食事をしている。

ほんの数世紀前までは、誰も想像できなかった光景だ。今世紀を生きる者達でさえ、御伽噺であると一蹴する様な光景だが、実際に起きている。


「んで?どうだったよ」

「どうって、何が?」

「ギルドだよ、ギルド。虐められなかったかよ?」

「なんで、虐められるの前提なのさ。大丈夫だよ、オレもう子供じゃないし………」

「オイラからしたら、ボウズはまだガキンチョ…いや、赤ん坊だよ」


数百という年月を土の中で過ごしていたゴブリンにとって、そりゃガンジャはまだ赤子の様なモノであるが、果たしてそれはカウントに入るのだろうか。

微妙な気持ちでガンジャは味噌汁を啜る。今日は、お揚げとワカメと豆腐。スタンダードな具材であるが、故に心地良いものを感じる。


「ロマ兄こそ、何かなかったの?最近、近くに魔物狩りが出てるらしいし……」

「オイラを舐めちゃいけねーよ。そこら辺にいる、人間なんぞに殺されるわきゃねーだろ?なんなら、オイラ死霊アンデッドだぜ?」


それもそうだ。ゴブリンもといロマネスコは、元死体、今や死霊アンデッド族である。死という概念は無いのだろう。

それでも、心配なものは心配なのだ。

「……ロマ兄、何かあったら言ってよ?オレじゃ大した事は出来ないだろうけどさ……」

「ボウズの、その言葉だけでオイラは嬉しいぜ。前まではピィピィ泣いてばかりだったじゃねーか」

「存在しない記憶捏造すんのヤメテ」


2人でご馳走様をし、ロマネスコが皿を洗っている時ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

ロマネスコに代わりガンジャが外に出る。


何故か嫌な予感がした。


そして、その予感は当たってしまった。


ドアまであと数歩。



5




4




3




2



1







ガチャリ




「…ど、ちら様で…「よぉ、昼間ぶりだn」ガチャン



悪夢は繰り返すものである。

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