05知らない人に名前を教えちゃダメやで、最悪殺られる

そうだ、そういえばオレ相手の名前知らないじゃん。

えも言われぬ不信感と恐怖がガンジャを支配する。思わず、ワンドを握る手が強くなった。


「え⁈名前も聞かずに、連れてきてしまったんですか⁈」

「だってヨォ、モモ死にそーだったじゃぁんね?」

「そう言う問題では……ハァ、親切な魔法使いさん。我がパーティーのリーダーの愚行、どうかお許し下さい。ほら、ニコラスさんも!」

「いんやぁ、すまんかったね〜。大事なモンすっ飛ばしとったわぃね」


ヘラヘラと笑う酔っぱらいの頭を押さえ付ける美青年。

うん、カオスである。

すると、先程までぐったりとしていた和装男が立ち上がった。


「とにかく、自己紹介が先だろうが。……さっきは世話ンなったな、俺はモモヤマ。剣士をしている」

「あ……ご、丁寧にどう、も」

「クラップスと申します。一応、僧侶をしております」

「あ、ハイ……よろしく、デス?」

「ンにゃ、オレだね。オレん名前は、ニコラスだじぇ〜ヒック……勇者だよー」

「あ、ハイ……って、え ぇ ぇ ぇ⁈‼︎‼︎ ゆ、勇者 ァァ ア ⁈‼︎」


「わー、デケー声」などと言ってゲラゲラ笑いながら、緋色もといニコラスは酒瓶を煽っている。

それより、なんだ。あの男は、今なんと言った?

「勇者」ガンジャが聞き間違えてなければ、彼は確かにそう言った。あの、飲んだくれが勇者だと?にわかに……いや、全く信じられる様な話では無い。 


「おょ?その顔じゃ、信じられね〜ってカンジ? ヒック」

「そ、そりゃそうでしょ……あ、アンタみたいな飲んだくれを信じるなんて、寧ろ疑う方が賢明ですって……」


「ウッヒャヒャ‼︎辛辣ゥ〜〜‼︎」また、ゲラゲラと笑っている。隣の剣士、モモヤマも煙管を手で遊ばせながらケラケラ笑っていた。いや、アンタさっきまで死にかけてただろうが。何、ヤニ吸おうとしてんだ。

「ハッハハッ、ヒィーウケる。全然信用ねーじゃーん‼︎……あ、そうらぁしょーこ、証拠あっからぁ、まっちて」


尚も腹と酒瓶を抱えてバカ笑いをしていたニコラスがまた荷物を漁る。

瓶と瓶がぶつかり合う音、紙の擦れる音がしばらく聞こえた後ニコラスが何かを持ってきた。


「ほぉれよ、ショーコショーコ❤️…ね?信じてちょ ヒック」

ニコラスが持って来たのは魔法石まほうせきがあしらわれた金色のチャーム___そう、俗に言う『勇者の証』と言うモノであった。

コレを見せられちゃ、ガンジャは信じるほか無くなってしまう。

ガンジャは、ガクリと項垂れた。

「わっかりました……信じます。アナタ達が、勇者一行だって……」

「なら、良かったぁ」


ニコニコと底知れぬ笑顔を浮かべながら、尚も酒瓶を煽るニコラス。

アイツいつか死ぬんじゃないか?飲み過ぎで。

なんて、不遜な考えを浮かべながらガンジャはその場を後にしようとする。


「ちょーいと、待ちな?」

声を掛けられた。立ち止まるが、後ろを振り返っても誰も居ない。



______ん?誰も居ない?

「こっちだよぃ」

「の わ ぁ ぁ ぁ⁈‼︎ ‼︎」

いつの間にやら、前に回り込まれていた。クラップスが申し訳なさそうにしている。


「解呪の謝礼金です。お受け取り下さい」

「いや!受け取れませんって‼︎」


もう、兎に角ここから離れてしまいたい。その一心であった。

勇者一行とはいえ、こんなにも胡散臭い男共のポケットマネーなんぞ受け取りたくない。

ガンジャはたまらず逃げ出した。


もう、後ろは振り返らなかった。




一方取り残された勇者一行は


「あんりゃ、逃げられちった」

「そりゃ、そうでしょ。あんな、強引に引き留めて……トラウマになってなければ良いですけど……」

「もう、遅いだろ。……ニコ、どうすんだ?」

「んー?そら勿論、引き入れっしょ。もう、形振り構っちゃいられねーしよ」

「正気ですか?……と言うか、あの方のお名前……」


「あー、聞き忘れちったww」


ゲラゲラと笑いながら、またもニコラスは48℃を流し込んだ。

喉が焼ける感覚に、クツクツと喉仏を震わせながら。


_________________________________________


ハルミヤ地方 冒険者ギルド前遊歩道


路地裏を我武者羅に駆け抜けて、開けた道に出た。

どうやら、ギルド前らしい。息を切らせるガンジャに訝しげに眉を顰めては、皆彼の横を素通りしていく。安堵の心からか、ガンジャは膝を地に着き息を鎮める。


「ッ……ハァ、ハァ…ッ、あ昼飯食いそびれた………」


いつの間にやら、空が茜に染まっていた。

ガンジャは、ローブを翻し下り列車に乗る為、駅へと足を進めた。

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