04知らない人についていったら……どうなんだろーね?

「……さぁ、やりますよ!」

ガンジャは、服の袖を捲った。腕に巻かれた薄汚い包帯をスルスル取って行く。


ガンジャは、あまりこの儀式をやりたく無い。

今でも同じ気持ちだ。でも、目の前で死にかけている人間がいるのに助けないなど人間として名が廃ると言うものだ。

手に酒を擦り込み、患部に聖水を染み込ませる。そこに、先程の手を当てれば何やら蠢く黒い影。


「お、なーんかいい感じ?」

緋色はどこから出したのか一升瓶をラッパ飲みで一気している。

「生き返る〜」だのと言っては、度数48%をキメている。アンタが生き返ってどうすんだ。てか、呑気かオマエ。

心の中でツッコミを入れながら、ガンジャはナイフを手に取った。


何度も言うが、ガンジャはあまりこの儀式をやりたくない。

それは勿論、準備が大変だとか詠唱が恥ずかしい等の理由が含まれる。

その中でも、特にやりたくないと思わせる要因があった。

それは、

「では、失礼します……ッ‼︎」

グサリ、とガンジャはナイフを己の腕に深々と差し込む。

タラタラと赤黒い血が和装の腹部へと滴る。


そう、ガンジャは痛いからやりたくないのだ。慣れない痛みに声の無い悲鳴が上がる。

あぁ、血が渇く前に詠唱を。思い直してガンジャは再び口を開く。

「 黒き影よ 汝の栖は ここに在らず

我が黒き血よ 影の安らぐ 栖と成れ 」 


瞬間、蠢いていた影の勢いが凄まじいモノとなり、和装の腹がグロテスクな程に波打つ。


「グァッ‼︎ガァ……ォエ''ッ‼︎……カハッヒューヒュー」

「スミマセン!あと、少し堪えて、いてっください!」


息が、か細くなっていく。呪い自体は大したモノでは無い。

しかし、かかり方が厄介だった。何重にも出鱈目に絡み合っている。スルスルと解いていくが、絡んだモノは解きにくい。恨みの気持ちが強いモノなら尚更である。


その時、隣から暖かい光が溢れた。

「マヂ・キュアー………こんな事でしか、お役に立てませんがどうか」

先刻の眉目麗しい青年が回復魔法を唱えている。

キュアーは精神汚染を清める魔法である。その、上位魔法であるマヂ・キュアーは広範囲回復である。

全く、ありがたいモノである。


「ありがとうございます…!ラストスパート、飛ばしますよ」

滴らせる血の量を増やす。蠢く影の勢いがさらに増す。精神浄化のおかげだろうか、先程から苦しみに喘ぐ声は控えめである。

その時、ズルッとナニかがガンジャの左腕に入り込む感覚があった。


コレだっ‼︎

そのまま集中する。左腕がだんだんと重くなる。比例して、流れる血の量も増える。

ジュルンッと中々気持ち悪い音がした。

呪いが左腕に完全に入り切った様だ。

鉛の様に重くなった腕に、封印呪文が刻まれた包帯を手早く巻いていく。


「コレで、多分ダイジョーブ……デス」


キツく閉じられていた瞼がソロソロと上げられる。

「……ッ!あぁ、随分楽になった。世話かけちまったな……」

「あ!いえいえ、そんなとんでもない……」


正面からのお礼に思わずまごつく。

ふと、ガンジャの肩に手が置かれた。


「おっつかれぃ、たすかったじぇ〜……んで、オマエさん名前なんてーの?」


そういえば、この人達誰だろう?

ガンジャは数刻前の恐怖心におかえりを告げた。

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