第7話 赤ペンを付けてあげます

 いつもとは違った文章が現れ、俺は「は?」と戸惑ってしまう。

『優しさが受け取れないから、人として終わってるから。そう思ったから、私は人を辞めた』

 ……どういう事だ? 人を辞めた? 何を言っているんだ?

 

 いや、何が言いたいんだ……?

 

 俺は益々眉根を寄せて、怪訝に首を傾げる。

『言った貴方は覚えていないでしょう。でも、言われた側はずっと覚えているの。その時与えられた、癒えない傷を抱えているの。人を辞めてからも、ずっと、ずっと』


 最後の「と」が書き終わった瞬間、俺の携帯の画面が勝手にサッと動き出した。

 俺は何の操作もしていないのに、勝手にページが淡々と切り替わる。あまりの気味の悪さに、携帯を放り投げそうになったが。

 勝手に動いていた携帯が見せつける画面によって、俺は怪訝に固まった。

 

 どこか見覚えのある、小説家の名前とアイコン。


 ジッとアイコンであるキャラクターを見つめていると、ガコンッと乱暴に記憶の棚からある記憶が飛び出し、俺をハッとさせた。


 そして何故、俺がこんなおかしな状況に陥っているのかを理解した。

 

 そうだ、そうだ! 思い返せばこの可笑しな赤ペンが始まったのは、コイツが自殺したって分かった後じゃないか!

 つまりこいつの勝手な恨み辛みのせいで、俺はこんな風になっているって訳だ……!

 俺はグッと拳を作り、「ふざけんなよ、てめぇ!」と思いきり声を荒げた。

「死んでも尚自分勝手かよ! 俺が何をしたって言うんだ、何もしてねぇだろ! 俺はただアドバイスをしてあげただけじゃ……」

 ハッとし、途中からもごもごと言い淀んでしまう。

 全く、同じ言い分を……俺はさっきコイツから聞いたからだ。


 俺は段々と蒼然とし始める。立場の悪さ……いや、本当の元凶に辿り着いてしまったばつの悪さにも、じわりじわりと絡み取られていく。

『そう、全ては優しさからのアドバイス』

『私は貴方と同じ、赤ペンを付けているだけですよ』

『絶対に消えない赤ペンと言う、優しいアドバイスをね』

 ニコリと、語尾に無機質なニコちゃんマークが付けられた。

 

 俺はその場でドサリと膝から崩れ落ち、「どうすれば、どうすれば」と頭を抱える。

 

『もうすでに手遅れ、そんな事にも気がつかないのは駄目』


 うずくまる俺の眼前に、新たな赤ペンが刻まれた。



  

 


 

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