第6話 こんなの間違っている
数ヶ月も経てば、俺の周りには数え切れない悪口が刻まれていた。消す事も出来ないから、所狭しと在り続けている。
それだから……いや、それだからではない。あの女達のせいで自分の言葉も書き加えられる事を知った人が膨大になり、俺の一挙手一投足が侮蔑される様になったから、俺は引きこもりになった。
元来、外にあまり出たがらない質であったから、ネット社会にのめり込む前の生活に戻った、と言った方が良い。
誰も彼もが勝手に俺を採点するんだ。俺を論うんだ。クソだろ、こんなの間違っているだろ。
俺は何もしてないのに、俺は可哀想な被害者なのに。勝手に世界から、社会から外されるんだから。こんなの間違っているし、許される事じゃねぇよ……!
ギュッと唇を噛みしめ、バサリと布団に深く潜り込んでから、握りしめている携帯を見つめた。
そしていつもの様に新規投稿作成のボタンを押して、現れたキーボードで素早く文字を打ち込む。
『お前等。悪口をぶつけるのが、そんなに楽しいかよ? 弱い者虐めして、そんなに面白いかよ?』
投稿。
すると目の前から、いつもの様に赤が動き出す。
『悪口じゃないですよ。これは赤ペンを入れてあげているだけです』
淡々と並んだ文章に、「は?」と零れた。もう何日もまともに喋っていないせいで、声帯がピタリと喉に張り付いたかの様な掠れた声で。
「赤ペンだと……? これのどこが赤ペンだよ。ただの悪口じゃねぇかよ」
訥々と呟くと、目の前の赤は淡々と書き進める。
『これは私からの優しいアドバイス。そんなのも分からないなんて駄目』
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな……!
自分の中でプツンと何かが切れる音がした。
「いい加減にしやがれ! 上から目線で好き勝手な事ばっか言いやがって! これのどこがアドバイスだ、悪口描いてるだけだろうが! 優しさなんてもんはねぇよ! くそったれが!」
荒々しくいきり立ち、堪っていた全てを赤ペンを握りしめた「見えない誰か」にぶつける。
「消せねぇ厄介なものを俺に残しやがって! ふざけんなよ、マジで! 俺は何もしてねぇのに、てめぇのせいで俺は惨めに成り下がって! こんな風になった! 全部、てめぇの勝手な行動のせいだぞ!」
『……私も貴方の自分勝手な行動のせいで、惨めに成り下がった』
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