第12話 会話ムーブ

女神ムーブ、俺に出来るかなぁ。


ま、いっか。

「かかってきな!」

元机の剣だが完成度はかなり高い。満足。それを相手に向けながら、本を勢いよく閉じる。

固まっていた黒木が動き出す。

「……?」

女神の俺を一瞥したあと、きょろきょろとあたりを見渡す。

見渡しても、なーんも無いんですがね、この白い世界には。

かかってきなポーズをしてる、女神以外は。

急に恥ずかしくなった。

ううぅ。剣を下ろす。

「こ、こんにちわ……」

かわいい声が自分の口から出てくる。

うげっ、気持ち悪い。本を閉じるまえに少し練習しとくんだった。

「……」

黒木は慎重にこちらを伺っている。

まあ状態「鬱」の人だもんなぁ。会話、成り立つわけないじゃんなー。

あ! やらかした! そうだ! 状態はいろいろ弄れるんだった。

鬱のまんま本を閉じちゃったよ。いきなり失敗した。

ポーズを女性っぽくしてみる。

「黒木さん、ですね?」

「……」

へんじがない。ただのしかば……ごほんごほん。

まずいな。会話、出来そうもないぞ。

「ステータス!」

いきなり黒木が叫ぶ。うぉまじか? こいつ……!?

黒木の前にはたぶんステータス画面が出ている、はずだ。

今の俺には見えない。というか、黒木のステータス画面を見えるようにする設定もあったはずだ。スキル無効とかの設定もあったな。無駄に細かい設定、あるんだよなぁ。いやはや、ほんと糞面倒くさいな。転生補助って。

指を空中でぐりぐりしている黒木。それをただ見つめている女神。

絵面がきっつい!

ええっままよ! 剣を地に突き刺すポーズ。

「判決を言い渡す! 黒木さん! 転生に同意しますか?」

「……」

へんじがない。ただの……*おおっと*

黒木が光に包まれる。そして消えた。

ふぅ。

自分の体も光り出す。

もとの薄い体になる。剣がするりと手から落ちる。

ふぅ。……オワタよ、はじめての転生補助が。今。

はぁ。

なんとか出来た。

できた? これで?

成功か失敗か。うーん、わからん。

黒木は消えていった。ならば転生成功だろう。でも黒木は「転生しますか?」に「はい」も「いいえ」も答えず、消えていった。

ま、なんとなぁく、その気持ち、分かってしまうんだよなぁ俺。

いきなり見知らぬ女神と会話するのは、結構、きつい。

あれ? もしかして、俺も状態は「鬱」だったりする???

……。

しかし黒木よ。大丈夫だろうか。ろくに会話もせず情報も得ずに転生して。転生後すぐに死亡となると、ペナルティで収支マイナスになるんじゃよ。わしが困るんじゃよ。大丈夫じゃろうな? 黒木よ。ふぉふぉふぉ。

「しんでしまうとは、なさけない……」

とかになってほしくないのじゃ。生き延びて欲しいのじゃ。


閉じたら消えていた紙がどこからか現れ、宙に浮かび戻り、文字を映し出す。

『女神ポイントを獲得しました。確認しますか? はい ・ いいえ 』

いぇーす! 先に貰えるの、いいね。

なら死んだらその時点でポイント引かれるシステムかな?

ってあれ? 紙の文字が漢字じゃないか!

薄いこの体だと「ひらがな」しか表示出来ないんじゃないの?

『女神ポイントがチャージされているので、問題ありません』

ふーん、そんなもんなのか。まあここ、白い世界だもんな。そういうもんだと思ってないと……って!

思考が読まれてる!?

『長い間触れていてたため、絆がつながっています』

うっ! 絆だとっ! 嘘くさい! とりあえず思考を読むな! ぼけかす!

『絆がきれました』

?!

……こいつ、絶対、嘘だな。……。

はぁ。くそ。

いや、マジでこの「紙」に思考が読まれるのは嫌だぞ。

『……』

絶対に!

『……』

いぃー! やぁー! っだぅあぁぁぁ!!!

『……』

『女神ポイントを消費して絆を切りますか? はい ・ いいえ 』

はい、を連打!!!!!

『女神ポイントを消費して絆を永遠に切りますか? はい ・ いいえ 』

はい、を命の16連打!!!!!

『絆を永遠に切りました。

  女神ポイントの残りを確認しますか? はい ・ いいえ 』

……切れた、の? 本当? 全く分からん。

というか、相手は紙だ。神の力をもった紙だ。この世界の創造主。もしくはその代理。なにをやっても無駄、かもしれん。思考駄々漏れ、かもしれん。でもそれを確認する方法がない。

(めがみのばーかばーか あーほあーほ)

と思ったところで、反応はないだろうなぁ。机が落ちてくるまでずいぶん悪態ついたし。あのとき何も起きなかったしな。

だが「助けて」と叫ぶと、あっさり机が落ちてきたし。まあ、つまりそういうことなんだろう。

紙。

救いの声には敏感で、悪態はスルーする、そんな存在。

見せつけてくれるじゃあ、ないか。その余裕が紙を紙たらしめているのだろう。

……はぁ。まあいい。

さあ! 待望の女神ポイント確認だ~!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る