第17話 シュバルツ!仲間になる!

 休み明けに学校に行くと、教室でシュバルツとマイケルがケンカになっていた。



「お前!子爵家の分際で侯爵家の俺に逆らうのか!」


「学院内では家柄は関係ないんだ!学院長先生も言っていただろ!」


「ふざけるな!」



 とうとう2人は殴り合いになった。仕方がないので僕が止めに入る。



「二人ともやめろよ。」


「貴様か!貴様もいい気になるなよ!」


「いいから、やめろよ!マイケル!」



 やっとのことで二人を引き離した。シュバルツもマイケルも鼻や口から血が出ている。そこに担任のメリック先生がやってきた。



「二人とも何をやってるの!喧嘩の理由はなんですか?」


「僕はただ『おはよう』って声をかけただけです。」


「シュバルツ君。どういうことなの?」


「こいつが俺のことを馬鹿にしたような目で見てきたから殴っただけです。」


「僕は別に馬鹿になんかしてないさ!」


「俺のことを哀れんだ目で見ただろ!」


「見てないよ!」


「もういい加減にしなさい!」



 放課後、2人は学院長室に呼ばれることになった。僕はシュバルツのことが気になった。



“アスラ!あの子、あなたとおんなじよ!”


”何が?“


“あの子の心から、悲しみ、怒り、憎しみの感情が溢れているわ!”


“僕と同じじゃないじゃないか!”


“最初にあった時のあんたもあの子と同じだったのよ!”



 考えてみればそうかもしれない。黒龍にお母さんとお父さんを殺されて、悲しみと黒龍に対する怒りと憎しみで一杯だった。もしかしたら、シュバルツの家でも何かあるのかもしれない。学校が終わって家に帰った僕はお父様に聞いてみた。



「お父様。少しいいですか?」


「なんだい?」


「クラスメイトのシュバルツ=カザリオンのことなんですが。」


「ああ、カザリオン侯爵家の長男か。それがどうしたんだ?」


「彼、物凄く孤独に見えるんですけど。侯爵家に何かあるんですか?」


「私もよく知らないが、カザリオン家の現当主であるバッハ侯爵は貴族派の中心人物の一人なんだ。とても豪快な人物なんだが、思慮に欠ける点があってな。確か長男は前妻との子どもだと聞いているが。」


「どういうことですか?」


「そうか。アスラは知らなかったか。ある程度の貴族になると、跡取りがどうしても必要になるんだ。だから正妻以外に何人か側室がいるんだよ。長男は正妻の子どもなんだが、側室にも子どもがいるんだ。」


「どうしてそれが問題になるんですか?」


「普通は問題ないさ。正妻の子どもが後を継ぐからな。だが、正妻はすでに他界したんだよ。そうなると、側室の意見に重きが置かれるようになるのさ。」


「まさか、シュバルツは侯爵家の跡取りから外される可能性があるってことですか?」


「まあ、そういうことだな。そうならないように助言する者がいればいいのだが、ただ次男を産んだ側室は相当美人で、バッハ侯爵も頭があがらないようだからな。」



 お父様の話を聞いて、なんかシュバルツが哀れに思えてきた。恐らく、家に帰っても誰とも話をしないのだろう。孤独と不安で一杯なのかもしれない。



“どうするつもりなの?”


“うん。考えがあるんだ。”



 翌日学校に行くと、やはりシュバルツは一人でいる。



「ねぇ。アスラ!」


「何?マリア。」


「スラム街のあの親子ってどうしてるかな~?今日、学校の帰りにみんなで様子を見に行かない?」


「賛成!私も気になってたんだよね~。ランちゃんってなんか妹みたいでさ。」


「僕も行ってみたいよ。アスラ君!」



 そういえば、2人がホフマン家のメイドになったことを言ってなかった。



「2人なら大丈夫だよ。」


「なんでそんなこと言えるのよ!」


「ミレイさんの具合がよくなって、ミレイさんもランちゃんも僕の家でメイドになったから。」


「えっ?!え———!!!」



 するとマリアが怒り始めた。



「なんでそんな大事なことを言わないのよ!私、すっごく心配していたのよ!」


「私も心配してた~!」


「ごめん!ごめん!すっかり忘れてたんだ。」



 そして午後の剣術の授業になった。すでに基礎練習だけでなく、お互いに剣を振るう模擬戦的な訓練も行っている。



「アスラ!今日も私と模擬戦よ!」


「ごめん。マリア。今日は他の生徒とやってくれるか?」


「どうしたのよ。」



 僕はシュバルツのところに行った。



「シュバルツ!僕と練習しようよ。」


「お前か!なんだ!お姫様ごっこはもういいのか!」


「君とは一度話がしたかったんだよ。」


「まあいいさ。俺がコテンパンにしてやるから覚悟しておけ!」



 そして2人一組の模擬戦が始まった。シュバルツが勢いよく打ち込んでくる。確かに力は強い。でもそれだけだ。僕はシュバルツの攻撃をすべて受け流した。他の生徒達は模擬戦をやめて僕達を見ている。カレン先生も目を丸くしてみている。



「ねぇ、シャリーさん。アスラ君ってあんなに剣が上手だった?」


「知らないわ。マリアさん!どうなの?」


「あんなアスラは初めてよ!」



 そして時間が来たようだ。シュバルツとの戦いは引き分けになった。



「シュバルツ!今日の放課後、学院の東の裏庭で待ってる!決闘だ!誰にも言うなよ!」


「ああ、わかった!」



 教室にもどる途中、マリア達が話しかけてきた。



「アスラってあんなに剣が上手だったなんて知らなかったわ!今まで本気じゃなかったのね?」


「まあね。5歳の時から習っているからね。」


「そうなんだ~。僕も同じ男として負けてられないよ。」


「マイケル!あなたには無理よ!」


「ひどいよ!シャリーさん!」



 そして放課後、誰にも気づかれないように決闘場所に来た。



「逃げずによく来たな!アスラ!」


「逃げるわけないよ!僕が決闘を申し込んだんだから!」


「お前、なぜ実力を隠していたんだ?」


「君には関係ないだろ!それより一つ賭けようじゃないか。負けた方が勝った方の言うことを一つだけ聞くっていうのはどうだ?」


「そんな約束してもいいのか?」


「構わないさ。」


「なら、俺が勝ったらお前には俺の奴隷になってもらうからな。」


「ああ、いいよ。」



 そして2人は向き合った。当然使う剣は木剣だ。授業の時のようにシュバルツが打ち込んできた。授業の時は彼の攻撃を受け止めるだけだったが今回は違う。



「やー」



 スッスッスー バコン



 僕は足を滑らすように横に避けてシュバルツの肩に打ち込んだ。



「なんだ!君の力はその程度か?もっと打ち込んできなよ!」


「ふざけるな~!でや~!」



 何度も何度もシュバルツが打ち込んでくる。だが、僕にはかすりもしない。すでにシュバルツの意気が上がっている。



ハーハーハー



「もうおしまい?」


「お前、本当に実力を隠していたんだな。」


「そうさ。でも、僕の力はこんなもんじゃないよ!どこからでもかかってきなよ!」


「キエ————」



 バコン



 シュバルツは気を失って地面に倒れた。そして空が暗くなり始めたころ、シュバルツが意識を取り戻した。寝ころんだままだ。僕はシュバルツの前に座った。



「俺の負けだ!何なりと言え!奴隷でも何でもなってやるさ!」


「なら、僕の友達になってよ。」


「友達?」


「そうさ。」


「どうしてだ?」


「君と僕は同じだからさ。」


「どういうことだ?」


「僕が5歳の時に、僕の住んでいた村が黒龍に襲われたんだ。生き残ったのは僕だけさ。悔しくて悲しくて、毎日毎日泣いて過ごしたよ。でも、僕は今のお父様とお母様に拾われて、養子にしてもらって、寂しさも悲しさも怒りも憎しみも、和らげることができるようになったのさ。」


「お前が養子?」


「そうさ。偶然、僕のお母さんと伯爵様が兄妹だったんだよ。僕も知らなかったんだけどね。だから、今は伯爵家の長男なんて言われているけど、本当は平民なんだよね。」


「そうだったのか。だが、その強さは?もしかして黒龍に仇を?」


「そうだよ。僕は黒龍を許さない。いつか強くなって必ず仇をとるんだ。」


「お前のことを誤解していたよ。殴って悪かったな。」


「いいさ。それより、君のことをお父様に聞いたよ。あの時の僕とおんなじだって思ったんだ。だから、君にはどうしても僕と友達になってもらいたいんだ。それに、どう考えても僕一人じゃ黒龍には勝てないからね。」


「それって、俺もお前と一緒に黒龍と戦えってことか?」


「強制はしないさ。でも、君となら一緒に戦いたいって思っただけだからさ。」


「わかった!約束するよ!俺は今日からお前と友達だ!一緒に黒龍を倒すぞ!」


「うん。」


「シュバルツ。僕の力のことはみんなには秘密にしてくれるかな?」


「どうしてだ?アスラのその強さをみんなが知ったら、みんなから尊敬されるじゃないか。」


「僕は目立ちたくないんだよ。」


「事情は知らんが、変わったやつだな。」


「それはお互い様だろ。」


「確かにな。」


ハッハッハッハッ



 僕達はこの日、固い綱で結ばれることになった。そして、これがのちの英雄シュバルツを生み出すことになる。

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