第15話 アスラ!子どもを助ける!

 入学して1か月が経ったころ、学校にも慣れてきたので4人で王都を散策することになった。当日、4人は王立学院の正門の前に集まったのだが、僕の魔力感知に4人以外の反応があった。どうやらマリアの護衛のようだ。護衛の人達は、気づかれないように少し離れた場所に隠れていた。



「私、いつもお城にいるから街を歩くことがないのよ。今日はみんなが知ってる場所を案内して!」



 すると、マイケルが言った。



「僕も最近王都に来たばかりでよく知らないよ。アスラ君なら知ってるんじゃない?」


「僕もおんなじさ。最近、領地から出て来たばかりだからよく知らないよ。シャリーはどうなの?」


「私も最近来たばかりだからわからないよ。でもみんな知らないんだから、みんなで王都を冒険するのはどうかな?」


「いいわね~。じゃあ、どこから行く?」



 正直言って行ってみたいところはない。だが、王都の武器屋なら少しだけ興味がある。



「商店街に行ってみようよ。いろんな店があるみたいだからさ。」


「いいわね~。」


「私、服屋に行きたいな~。この服って田舎者みたいなんだもん。」



 すると、マイケルが顔を赤くして言った。



「そんなことないよ。シャリーさんはどんな服でも似合うから。」


「なら、私の服はどうなのよ?」



 マリアの言葉にマイケルが動揺したようだ。



「ま、ま、マリアさんも似合ってるよ。」


「本当に?」


「うん。」



 マイケルの様子を見て気付いたが、どうやらマイケルはシャリーに好意を抱いているのかもしれない。しばらく歩いているうちに商店街に来たようだ。商店街には服店、食堂、貴金属店、肉店、野菜店、魔道具店、雑貨店、家具店などがそれぞれ複数あった。大通り沿いや噴水広場には所狭しと屋台も立ち並んでいた。



「なんかいい匂いがするわね。アスラ!この匂いは何なの?」


「多分あそこの屋台じゃないかな~。」


「僕、お腹ペコペコだよ。何か食べようよ。」


「マイケルは本当に食いしん坊ね。いいわ。アスラ、シャリー。何か食べましょ。」



 僕達は屋台で肉串を買った。僕は塩味、3人はたれ味だ。一口食べてマリアが感動の声をあげた。



「美味しい!おじさん!これってなんの肉なの?」



 すると、屋台のおじさんが喜んで教えてくれた。



「お嬢ちゃん嬉しいね~。これはボアさ。うちの店じゃ、ボアの中でも柔らかくて美味しいレッドボアを使ってるんだよ。」


「本当にボアなの?こんなに美味しいお肉、お城でも出てこないわよ。」


「お城?お嬢ちゃん達は何者なんだい?」



 ここで、マリアの正体を知られるわけにはいかない。咄嗟に僕が答えた。



「王立学院の生徒ですよ。」


「そうかい。学院の生徒なのかい。わしはてっきり王族かと思ったぞ。ハッハッハッハッ」



 僕達は再び屋台をまわり始めた。次に目に入ったのは果物を水あめにつけて売っている店だ。マリアが不思議そうに眺めている。



「あれって何かしら?」



 マイケルもシャリーも知らないようだ。僕はお父様とお母様から聞いて知っていた。



「これはイチゴ飴、りんご飴、バナナ飴だよ。大昔にいたって言われている勇者様が伝えたらしいよ。」


「意外ね。アスラって結構物知りなのね。」


「別にそんなんじゃないよ。お父様とお母様に教えてもらっただけだよ。」


「へ~、そうなんだ~。」


「シャリーさん。アスラ君も僕と同じで食いしん坊ってことだよ。ねっ!アスラ君!」


「アスラ君はマイケルとは違うわよ!」


「え~!そんな~!シャリーさん!ひどいよ!」



ハッハッハッハッ



 その後、服屋をまわった。マリアもシャリーも楽しそうだが、服に興味のない僕とマイケルは暇にしている。僕とマイケルは店の外で待っていることにした。すると少し離れた場所が騒がしい。



「マイケル。なんか人が騒いでるよ。行ってみようか。」


「うん。」



 どうやら、果物を盗んだ子どもが店の主人に捕まったようだ。



「だから謝ってるじゃないか!」


「謝って済むもんか!衛兵のところまで一緒に来い!」


「悪かったよ。勘弁してくれよ。おいらが捕まったら母ちゃんの面倒見れなくなっちゃうんだよ。」


「また言い逃れか。嘘をつくな!」


「嘘じゃないよ!母ちゃんは病気なんだよ!許しておくれよ!」



 子どもは必至だ。だが、店主が言う通り子どもが嘘をついている可能性もある。



“アスラ!こういう時こそ心眼よ!”


“そうだな。”



 僕はリンに言われて魔力を目に流した。子どもの色は綺麗に澄んだ青色だ。



「あの~。この子の盗んだものって何ですか?」


「なんだ?お前は!」


「この子の言ってることって本当なんですよ。代わりに僕がお金を払いますから、今回だけは許してもらえませんか。」



 見物人達が一斉に僕を見る。



「おい!あの金髪って、たしか伯爵家の人間じゃないのか?」


「そうね~。この国で金髪って言ったら、ホフマン家の人間か王族だけよ。」



 僕は店主に金貨1枚を渡した。本来、果物は高くても銀貨1枚だ。その100倍の金額だ。



「仕方がねぇな。今回だけは勘弁してやる。その代わり2度と来るなよ!」



 僕は地面に座り込んでいる子どもに手を差し出した。



「お兄ちゃん、ありがとう。」


「いいさ。それより君の家はどこだい?」


「この先を右に行ったとこだよ。」



 その場所は歓楽街の奥のスラム街だ。子どもと話をしていると、マリアとシャリーがやってきた。



「どうしたのよ?2人とも。」


「その子は誰なの?」



 マイケルがマリアとシャリーに事のあらましを説明した。するとマリアが厳しい顔で子どもに言った。



「ふ~ん。でも、理由はどうあれ人の物を盗むのは犯罪よ!あなた名前は?」


「おいらは・・・」



 すると今度はシャリーだ。



「君、男の子の振りしてるけど、女の子よね?」


「えっ?!」


「私にはわかるんだ。私も女だけど、小さい頃から男の子の恰好してるからさ。」



 すると、少女は観念したかのように正直に話し始めた。



「女の子だってわかると誘拐されやすいから・・・・」


「君の名前は?」


「ラン。」


「そうか~。ランちゃんていうのか~。可愛い名前じゃないか。」

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