第14話 初めての友人
そしてその翌日、いよいよ今日から勉強だ。午前中は教室で一般常識や算術、歴史、地理などの勉強をする。午後からは体力づくりや剣の訓練だ。教室を見渡すと、昨日の僕の席にはすでに人が座っていた。そこで、一番後ろの真ん中の席に座ることにした。すると、ニコニコしながらマリア王女がやってきた。
「おはよう。アスラ!」
「おはようございます。マリア様。」
「アスラ!私達友達でしょ?『様』は禁止よ!」
「わかりました。なら、マリアさんならいいですよね?」
「なんで敬語なのよ~!敬語も禁止だからね!」
「わ、わかりまし、あっ!わかったよ。」
「そう!それでいいのよ。」
僕とマリアの様子をシュバルツが遠くから見ている。多分、また何か言ってくるんだろうな~、と面倒に思っていた。すると、僕達のところに少年と少女がやってきた。
「確かアスラ君だよね。僕はマイケルだよ。いつも君のお父様にはお世話になっているんだ。よろしくね。」
「私はシャリーよ。私のお父さんもウイリアム伯爵様には世話になってるんだよね。お父さんにアスラ君と友達になるよう言われたんだ~。よろしくね。」
「マイケル君!シャリーさん!僕の方こそよろしくね。」
すると、マリアが僕を睨みつけた。何か言いたいことがあるようだ。
「アスラ!」
「あっ!マイケル君、シャリーさん。マリアさんとも友達になったんだよ。みんなで仲良くしようね。」
すると、マイケルもシャリーも緊張しながらマリアに挨拶した。
「ま、マリア王女様。ご、ご機嫌うるわ・・・」
「ダメだよ!マイケル君。マリアさんに堅苦しいあいさつは!僕達は友達なんだから!そうだよね?マリアさん!」
「そ、そうよ!アスラの言う通りよ!『王女』は禁止!『様』も禁止!敬語も禁止!いいわね!」
「は、はい!」
ハッハッハッハッ
なんかいきなり僕達は友達になった。席も自由だったので、僕達は近くに並んで座ることにした。他の生徒達も仲良くなった相手と話をしながら座っている。ただ、シュバルツだけは一人だ。昨日のあの様子だと、傲慢な性格が災いしているのかもしれない、そんな風に感じた。
「アスラ君って瞳の色が緑なんだね。」
「私も気づいたよ。緑の瞳ってなんかかっこいいよね!」
マイケルとシャリーに言われて、あらためて緑の瞳が珍しいことに気が付いた。
「お父様とおんなじなんだよ。なんかホフマン家は金髪で緑の瞳をしてるらしいよ。」
「確かにそうよね。マイケルも私も茶色なのに、アスラ君のように金色の髪は珍しいよね。」
するとマリアがボソッと言った。
「何よ!少しカッコいいからって鼻の下伸ばしちゃって!私だって金髪なんだからね。」
「ぼ、僕はそんなつもりはないんだけど。」
「フン!知らない!」
なぜか急にマリアが不機嫌になって、少し雰囲気が悪くなってしまった。すると、シャリーが気をきかせてくれた。
「最初は算術の授業だよね?私、算術苦手なんだ~。うちは男爵だからお金がなくて、いつも家族みんなで畑仕事してるんだよね~。」
「そうなの?」
僕からしてみると、貴族はみんなそれなりに豊な生活をしていると思っていたので、物凄く意外だった。
「うちだって同じだよ。男爵も子爵もそんなに変わらないからさ。アスラ君のところは?」
「うちは家族で畑仕事をすることはないかな~。でも、お父様はいつもいろんな街に出かけてて、物凄く忙しそうなんだ~。だから、書類なんかはお母様と執事が見るようにしてるみたいだよ。」
「へ~!伯爵様も忙しいんだね。」
すると、僕達の話を聞いていたマリアが寂しそうに言った。
「うちだってそうよ。お父様もお母様もいつもお仕事してるんだから。私もお兄様も小さいころからあまり遊んでもらえなかったのよ!」
「え~!!!」
これには僕も驚いた。いくら身分が高くなってもそれなりに仕事があるようだ。
午前中の授業が終わってお昼ご飯の時間が来た。僕達4人が食堂に行くと、食堂はすでに生徒達で一杯だ。テーブルを見ると全員が同じものを食べている。王立学院では平等性を保つために全員が同じものを食べるのだ。
「ステーキなんて豪華だよな~。さすが王立学院だよ。僕、入学してよかったよ。」
今にもがつがつ食べそうなマイケルを見てマリアが注意した。
「マイケル涎を拭きなさい!みっともないわよ!」
マイケルもお腹ペコペコのようだが、実は僕も背中とお腹がくっつきそうなぐらいお腹が空いている。僕もマイケルも成長期なのかもしれない。すると、シャリーが料理のプレートを見て言った。
「私、ニンジン嫌いなんだよな~。アスラ君~、食べてくれない?」
「ダメだよ。シャリー。出された料理は自分で食べなきゃ。」
「そうよ。シャリー!学院には栄養士がいて、ちゃんと栄養を考えて作ってるんだから!全部自分で食べなさい!」
「わかったわよ~。でも苦手なんだよな~。」
そして、お昼休みの後は剣術の授業だ。先生は元冒険者の女性らしい。僕達は運動着に着替えて修練場に行った。すると、そこには見覚えのある女性がいた。
「おお!アスラじゃないか!」
「もしかして、剣術の先生ってカレン先生なんですか?」
「ああ、そうだ。伯爵様の紹介でな。この王立学院に就職したんだ。私ももう年だしな。冒険者はもうやめたんだ。」
「何を言ってるんですか!カレン先生はまだまだ若いじゃないですか!」
すると、カレン先生が昔のように大きな胸の中に僕を抱きしめてきた。それを他の女子生徒達が恨めしそうに見ている。
「か、か、カレン先生!苦しいです!」
「ああ、悪い悪い!お前、相変わらず小さいな~!」
「当たり前ですよ。最後に会ってからまだ1か月しか経ってないんだから!そんなに急に大きくはなりませんよ!」
「そりゃそうだな!ハッハッハッハッ」
そんなこんなで、いよいよ授業がスタートだ。
「アスラ!あの先生と知り合いなの?」
「まあね。5歳の時から剣を習ってたんだ~。」
「そうなのね。じゃあ、あの先生って結構な年ってことよね。フ~ セーフ!」
「何がセーフなの?」
「何でもないわよ!それより、アスラ!あなたあの先生に抱き着かれてなんでニヤニヤしてるのよ!まったく厭らしいんだから!フン!」
なぜかマリアのご機嫌が斜めだ。すると、カレン先生の大きな声が聞こえた。
「早く並べ!だらだらするな!」
やはりカレン先生だ。指導する際はかなり厳しい。
「では、今日は剣の握り方から教える。全員、そこから木剣を持ってこい!」
「はい。」
最初は木剣の正しい握り方から指導が始まった。僕のように経験のある者だけではないからだ。木剣の握り方ができたら次は素振りだ。最初にカレン先生がお手本を見せた。
ブーン ブーン ブーン
音が凄い。同時に、剣が振り下ろされた瞬間に風が起きる。慌てた様子でマイケルもマリアと同じようなことを聞いてきた。
「アスラ君!あの先生って何者なの?知り合いなんでしょ?」
「うん。元冒険者だよ。僕も昔、剣を習ったことあるんだ。」
「そうなんだ~。それで知ってたんだね。」
「まあね。」
カレン先生は美人でスタイルがいい。男子生徒達はもうメロメロだ。いつのまにか女子生徒達も憧れのまなざしで見ている。
「では、今度はお前達がやってみろ!」
生徒達が一斉に素振りを始める。経験のある生徒はしっかり振れているが、経験のない者達はフラフラしながら木剣を振っている。僕も剣は得意ではないが、他の生徒よりはかなり鋭く振れる。だから、目立たないように注意しながら力を抜いて振った。
「アスラ!お前何をしてるんだ!わざと力を抜いてるだろう!」
「いいえ。僕、本気でやってますから。」
カレン先生には僕が手を抜いていることがばれているようだ。だが、それ以上は何も言わなかった。すると、シュバルツがカレン先生に言った。
「先生!こんなことしても強くなれません!もっと実践的な勉強がしたいです!」
「確か~、お前はシュバルツだったな。剣の基本は素振りだ。しっかりと素振りができないものは絶対に強くはならん。黙って指導に従え!」
シュバルツは不貞腐れたような態度でいた。他の生徒達は冷めた目でシュバルツを見ている。
「私、あの子嫌いだな。すごく自分勝手よね。アスラ君は?」
「えっ?!何が?」
「聞こえなかった?」
するとカレン先生の怒鳴り声が聞こえた。
「ほろ!そこ!アスラ!シャリー!怠けるな!」
「は、はい!」
聞こえていなかったわけじゃない。惚けただけだ。シュバルツを見ていると、何故か嫌うことができないのだ。そんな僕の様子をマリアが観察するように見ていた。
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