第10話 王都についても修業は続く

 僕達は王都に到着する直前に1台の馬車を助けた。盗賊のような人達に襲われていたのだ。その馬車からは身分の高そうな少女が降りてきた。少女にお礼を言われ、再び王都に向けて動き出したのだが、僕は少女のことが気になった。



「お父様。あの方はどなたなんですか?」


「ああ、そうか。アスラはお会いしたことがなかったな。あの方は、このスチュワート王国の第1王女マリア様だ。」


「王女様ですか?」


「ああ、そうだ。確かお前と同じ年だったと思うぞ。」



 するとお母様がニコニコしながら言った。



「まあ、どうしましょう。王女様もアスラちゃんと同じ王立学院にご入学なさるのよね~。アスラちゃんのことを気に入られたら困るわね!」


「お母様。大丈夫ですよ。そのようなことはありませんから。」


「そんなことはないわ。だって、アスラちゃんてウイリアムと同じでとっても素敵な顔立ちしてるもの。」


「ありがとうな。ジャネット。アスラは私の甥だ。似ていても何の不思議もないだろう。ハッハッハッ」



 なんかこの2人の話が僕にはピンとこなかった。自分の容姿のことなんか気にしたことがなかったからだ。



“アスラ!あなた気付いてないかもしれないけど、相当な美男子なのよ。”


“えっ?!そうなの?”


“そうよ。街を歩いたときに女の人達が振り向いていたの、気が付かなかったの?”


“全然気付かなかった!”


“まあ、そこがアスラのいいとこかもね。”



 王都ビザンツに到着した。王都ビザンツはしっかりと区画整理されていて、貴族街、平民街、商店街、歓楽街と別れていた。ただし、歓楽街の奥には貧しい人々が暮らすスラム街があり、かなり危険な場所のようだ。お母様に歓楽街には近づかないようにくぎを刺された。



「アスラちゃん。あそこに見えるお城が王城なのよ。その隣にある塔がナデシア聖教会の大聖堂よ。凄いでしょ?」


「はい。物凄く立派です。それに通りも広いし、いろんな店が並んでいてワクワクしてきます。」


「そうね~。国中の特産品が集まってくるからよ。ほら、あそこに素敵なレストランが見えるでしょ?あそこの料理は物凄く美味しいのよ。私とウイリアムの思い出のお店なの。」


「そうだな。私とジャネットが初めてデートした店だもんな。」


「ウイリアムったら!覚えていてくれたのね。」


「当たり前じゃないか。」


「僕も一度行ってみたいです。」


「そうだな。明日にでも3人で食べに行くか?」


「はい!」



 大通りを抜けて貴族街に入り、お屋敷に到着した。さすが伯爵家のお屋敷だ。庭が広く、建物も大きい。家に入ると、普段ほとんど住んでいないはずなのにきれいに掃除されていた。すると、先に到着していたメイド長のマイヤーとメイド達が立って出迎えてくれた。



「お帰りなさいませ。伯爵様。奥様。アスラ様。」


「マイヤー。これからはこの屋敷に住むことになるから、みんなもよろしく頼む。」


「はい。」



 すると一人のメイドが声をかけてきた。



「では、アスラ様。アスラ様のお部屋はこちらです。ご案内します。」


「うん。」



 メイドに案内された部屋にはやたらと大きなベッドがあった。



「ありがとう。キャッシー。」


「何か御用がありましたらお呼びください。」


「うん。」



 僕は早速屋敷の中を探検することにした。最初に行ったのは大好きな図書室だ。部屋はやたらと大きいし、本棚もたくさんあるのに意外と本は少なかった。多分、普段この屋敷に暮らしていないからだろう。それからお風呂を見に行った。お風呂はやはり広々としている。なんか一人で入るのはもったいないぐらいだ。



「どうだったかしら?気に入ったかしら?」


「はい。領地のお屋敷も立派でしたが、このお屋敷も立派すぎて迷子になりそうです。」


「そうか~。だけどな、王城や公爵様のお屋敷に比べればこれでも小さい方なんだぞ。」


「そうなんですか?」


「ああ、そうさ。王城から近いほど身分が高く、屋敷が大きくなるんだ。」


「そうなんですね。」


「そうよ。アスラちゃん。マイヤーに教えてもらったでしょ。貴族について。」


「はい。王族の次に公爵家、そして辺境伯家、侯爵家と続いて、その下に伯爵家、子爵家、男爵家、騎士爵家があるんですよね。」


「よく勉強してるじゃないか。」


「しっかり覚えないとマイヤーに叱られますから。」


「そうか。アッハッハッハッ」


「でも、公爵家や辺境伯家、侯爵家は数が少ないからすぐに覚えられましたけど、伯爵家からは数が多くて覚えきれません。」


「そうだな。私だってすべてを覚えているわけではないさ。貴族にはそれぞれ一門があるんだ。スチュワート王家を中心とした一門、ロバート公爵家を中心とした一門、フランクリン辺境伯家を中心とした一門、カザリオン侯爵家を中心とした一門の4つのグループがあるんだ。」


「我が伯爵家はどの一門になるのですか?」


「そうだな~。ホフマン伯爵家はロバート公爵家の一門だな。」


「公爵家と何か関係があるんですか?」



 するとお母様がもじもじしながら話し始めた。



「そうよ。現在の公爵ユリウス=ロバートは私の兄なのよ。」


「そうなんですか~?!」


「ああ、そうさ。公爵家のパーティーで、ひと際美しく目立っていたジャネットを私が射止めたのさ。」


「ま~!ウイリアムったら。私だってあなたに一目ぼれしたんだから。」



 なんかいい夫婦だ。お父さんとお母さんも、伯爵夫妻のようにいつも仲が良かった。思い出すと悲しみが込み上げてくる。



「さあ、食事の時間だ。マイヤーが言っていたが、今日はご馳走のようだぞ!」



 その後、僕達は食堂に行ってご飯を食べた。お父様が言っていた通りかなり豪華だった。そして自分の部屋で休もうとしていると、リンが話しかけてきた。



“アスラ!何を寝ようとしてるのよ!今日から本格的に訓練するんでしょ!”



 そうだった。僕は基本的な訓練はいしてきたが、実践的な訓練はほとんどしていない。だからゴブリンキングにやられたのだ。



“どこに転移すればいい?”


“そうね~。ロッテンシティーの郊外の森がいいかな。あの辺りには強力な魔物も多いからね。”


“ロッテンシティーって伯爵家の屋敷のある街じゃないか。”


“そうよ。何か?”


“いいや。何でもないさ。”



 僕はロッテンシティーの郊外の森の前に転移した。すでに日が沈んで真っ暗だ。魔力感知を頼りに森の中に入っていった。



“アスラ!目に魔力を集中させて!”


“うん。”



 目に魔力を集中させると真っ暗のはずが周りが薄っすらと見えるようになった。しばらくして魔力感知に反応があった。



”リン!この先に反応があったよ!“


“行ってみましょ!この前みたいに油断しちゃだめよ!”


”わかってるよ!“



 反応のあった場所まで行くとブラックボアがいた。



“遠距離から魔法で攻撃して!でも、火はダメよ!”


”わかってるよ!森だからでしょ?“


“そうよ。わかってるじゃない!”



「敵を切り裂け!『ウォーターカッター』」



ブヒー

  


 ブラックボアには命中したが、木に邪魔されて威力が半減してしまった。突然攻撃を受けたブラックボアは必死で反撃してきた。最初の突進は何とか避けたが、横に飛び避けた際に思わず木の根でつまずいてしまった。そこにブラックボアが突進してきた。



グホッ 



 僕は腹に激痛を感じた。腹を見ると、ブラックボアの牙が僕の腹に刺さっている。



“アスラ!怖がっちゃダメ!手に魔力を流して攻撃するのよ!”



 リンが必死にアドバイスをしてくれるが、体が思うように動かない。



“しょうがないわね~。これでどう?”



 あの時と同じだ。リンから僕にエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。僕は手に魔力を集中させ、そして目の前にいるブラックベアを手刀で攻撃した。



「すべてを突き破れ!『アイアンハンド』」



グサッ ブスッ 


ドッシーン



 鋼鉄のように固くなった僕の手が、ブラックボアの背中を突き刺した。そしてブラックボアはその場に倒れて絶命した。



“また服に穴が開いちゃったよ!”


“何ともないの?アスラ!”


“そんなわけないだろ!痛いに決まってるじゃないか!”


“でも、あんたって不思議よね~。腹に穴が開いているのに生きてるんだもんね~。”


“それを言わないでよ!”



「傷を癒せ!『パーフェクトヒール』」



 僕の腹の傷がどんどん治っていく。だが、破れた服はそのままだ。そこで、魔法で服を元の状態に戻して自分の部屋に戻った。



”疲れたな~。“


“何言ってるのよ!まだ訓練1日目じゃない!”


“わかってるよ!”


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