第9話 旅の途中の修行(2)
王都に行く旅の途中で、リンの指導の下、僕は空間魔法の練習をした。その結果、転移魔法が使えるようになり、ゴブリンのいた森まで転移した。
“どう?ゴブリンはいた?”
“うん。500m先にかなりの数がいるよ。”
“なら、そこに集落があるわね。気をつけなさい。恐らくキングがいるわよ。”
”うん。“
集落の近くまで来ると、鼻を突き刺すようなにおいが充満していた。
“臭いんだけど。”
“我慢しなさい!”
“どうするのさ?”
“そんなの自分で考えなさいよ。あなたの訓練なんだから。”
例え魔物であっても生き物だ。僕はゴブリンを殺すのに抵抗を感じていた。
“アスラ!何を迷っているのよ!相手は魔物よ!ゴブリンは街道を通る人々を襲っているのよ!このまま放置するつもり?”
“わかったよ。”
僕は覚悟を決めてゴブリン達の前に出た。ゴブリン達は人間の子どもが迷い込んできたとでも思ったのだろう。こっちに向かってゆっくりと歩いてくる。
「敵を切り裂け!『アイスカッター』」
僕の手元から氷の刃が飛び出し、ゴブリン達を切り裂いていく。
ギャッ ギャ ギャ
仲間が殺されたのを見て、ゴブリン達はサビてぼろぼろの剣を手に取り、僕を囲むように陣取った。
“アスラ!囲まれちゃったよ!どうするの?”
ゴブリン達が一斉に襲い掛かってきた。僕は手から火魔法を放つ。
「すべてを燃やせ!『ファイアー』」
まるで火炎放射器のように勢い良く炎が噴き出した。僕はそのまま体をぐるりと一周させる。すると、ゴブリン達は避けることができずに次々と火だるまになっていく。
フー
”これで全部かな?“
グサッ
気を抜いた瞬間、背中に強い痛みを感じた。よくみると槍が僕の胸まで突き出ている。どうやら、後ろから飛んできた槍が刺さったようだ。徐々に意識が遠のいていく。
“アスラ!アスラ!ダメよ!アスラ!”
リンからエネルギーが僕に流れ込んでくる。気を失いかけながらも、僕は背中の槍を自分で抜いた。物凄い激痛だ。
ウ————!!!ズッバン
グハッ ハーハーハー
胸からはドバドバと血が流れだしている。僕は自分に治癒魔法をかけた。そして振り向くと、目の前には巨大なゴブリンがいた。頭を傾けている。僕が死なずに倒れないでいるのが不思議なようだ。
「お返しだ!死ね!」
ビュー ズッドン
僕は背中から抜いた槍に魔力を込めて投げ返した。その槍がゴブリンキングの頭を貫いたのだ。ゴブリンキングは大きな音を立ててその場に倒れた。そして、僕は力を振り絞るようにして、宿屋のベッドに転移した。
“アスラ!アスラ!アスラ!しっかり!”
リンが僕を呼ぶ声が聞こえる。だが、その声がだんだんと小さくなっていく。そして、僕は意識を失った。どのくらい時間が経っただろうか、窓から日差しが差し込み始め、外から小鳥のさえずりが聞こえてきた。目が覚めると、服に穴があいてベッドも服も血で真っ赤に汚れている。
“気が付いたようね。”
“リン!どうしよう。このままじゃまずいよ!”
“しょうがないわね~。復元の魔法『リストア』を使いなさい。”
僕はリンに言われた通り魔法を発動する。
「元に戻れ!『リストア』」
すると、身体が光ったと思ったら服もベッドも元通りになっていた。
“ありがとう。リン!”
“いいわよ。それより、あなたなんで生きてるのよ?心臓を槍で貫かれたじゃない!”
“だから言っただろ!黒龍の時も死ななかったって!”
“そうね。信じるしかなさそうね。”
“なんだよ~。疑ってたの~?”
“別に疑ってたわけじゃないわよ!でも、もう完全に信じたから!”
僕は食堂に行く前に鏡を見た。今日も目の下にクマができている。
「あ~。疲れた~。眠い~。」
思わず独り言が出てしまった。そのまま食堂に行くと、僕が疲れているのがわかったのか、お母様が声をかけてきた。
「アスラちゃん。今日も疲れているようね。大丈夫なの?」
「はい。心配をかけてすみません。」
「大丈夫だ。ジャネット。また、膝枕で眠ればよくなるさ。ハッハッハッ」
お父様に言われた通り、僕は馬車に乗ってすぐに眠ってしまったようだ。目覚めた時には、すでに王都の手前まで来ていた。
“アスラ!この先で馬車が襲われてるわよ!”
”えっ?!“
魔力感知で確認すると、10人ほどの盗賊らしき者達が数人の護衛らしき者達と戦っていた。
「お父様!この先で馬車が襲われています!」
「本当か?」
「はい!間違いありません!」
お父様はザックを呼んだ。
「ザック!兵士を連れてこの先に行ってくれ!馬車が襲われているようだ!」
「ハッ」
ザックはお父様の言葉を疑うこともなく、兵士を連れて走って行った。
「また映像が見えたのか?」
「はい。」
「やっぱりアスラちゃんは神様に愛されてるのかもしれないわね。」
なんかお父様とお母様をだましていることに後ろめたさを感じた。馬車が到着すると、すでに盗賊達は討伐されていた。僕とお父様が馬車から降りて兵士達をねぎらいに行くと、馬車の中から執事のような男性と少女が降りてきた。少女を見た瞬間、兵士達もお父様も慌てて片膝をついた。僕もお父様達の真似をして片膝をついた。
「ウイリアム伯爵様。ご助力ありがとうございました。お陰で助かりました。感謝します。」
「とんでもありません。臣下の役目を果たしたまでです。」
伯爵のお父様が少女に向かって『臣下』といっている。もしかしたら、上級貴族の御令嬢なのかもしれない。
「伯爵様。明日にでも王城にお越しください。お父様よりお礼をさせていただきます。」
「ハッ」
少女は再び馬車に乗って王都に向けて出発した。残った僕達は盗賊達の死体の後始末だ。道の脇の開けた場所に穴を掘ってそこに死体を埋めた。それから僕達も再び王都に向けて出発した。
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