第8話 旅の途中の修行(1)

 王都に向けて出発した僕達は1日目にガレントいう街に立ち寄った。



「お父様。お母様。街の中を見学したいんですけど。」


「そうね。アスラちゃんにとっては珍しいものばかりよね。ウイリアム。いいでしょ?」


「そうだな。ただし、ザックを同行させよう。いいな!」


「はい。」


「ザック頼んだぞ!」


「ハッ」



 僕は馬車を降りた後、ザックと一緒に街を歩いた。お土産屋さんや雑貨屋さん、それに武具店や服屋、食堂があった。



「ザック!あの武具屋に行ってみたいんだけど。」


「わかりました。」



 武具屋の軒先には見慣れない武器が売られていた。



「これ何かな~?」


「これはレイピアですな。女性は力がありませんから、こうした軽く鋭い武器を好むんです。」


「なるほどね。ならこれは?」


「これは手裏剣ですな。暗殺者なんかがよく使うものです。小型ナイフのようなものです。」


「へ~。いろいろ売っているんだね。でも、ザックは物知りだね。」


「はい。伯爵様にお仕えするまでは冒険者をしていましたから。」


「なら、サムって冒険者のこと知ってる?」


「ええ、知っていますとも。サム殿は伝説のようなお方ですから。黒龍に立ち向かっていかれたと聞いています。ですが、あのような結果になって残念です。」


「ありがとう。ザック。お父さんのことを褒めてくれて。」



 すると、ザックはハッとした顔になって、申し訳なさそうに言った。



「申し訳ありません。余計なことを言いました。」


「いいんだよ。僕はお父さんのこともお母さんのこともよく知らないからさ。ただ、強くて優しい人達だったって記憶しかないよ。」



 武具屋を出た後、僕達は街の中を見て回った。すると、剣と盾の絵が描かれた看板があった。



「ザック。あそこは何なの?」


「冒険者ギルドですよ。冒険者になるにはギルドで登録するんです。そして、依頼をこなしてお金をもらいながらランクを上げていくんです。」


「ランク?」


「そうです。ランクにはSからGまであるんです。冒険者達は自分のランクにあった依頼しか受けることができないんです。」


「僕も登録できるかな~?」


「それは無理ですね。アスラ様は貴族ですから保護者の同意が必要です。それに登録料が銀貨1枚が必要になります。伯爵様も奥様も賛成しないと思いますよ。」


「そうか~。何とかならないかな~。」


「こればっかりは無理ですね。」



 街中を見学しながらお父様とお母様のいる宿屋まで戻ってきた。宿屋の中に入ると、部屋に案内された。どうやら僕は一人部屋らしい。ベッドに寝転んで寛いでいると執事のハーリーがやってきた。どうやら食事のようだ。



「アスラちゃん。街はどうだったかしら?」


「はい。武具屋で珍しい武器を見ました。ザックがいろいろと説明してくれたので、すごく勉強になりました。」


「そう。良かったわね~。」


「アスラ。明日は早朝に出かけるから、今日は早く休むようにな。」


「はい。お父様。」



 食後部屋に戻ってベッドで寝ころんでいるとリンが話しかけてきた。



“ねえ。アスラ。”


“何?”


“あなた、空間魔法を覚えなさい。”


“空間魔法ってどんなの?”


“転移とか瞬間移動。それに、空間収納なんかができるようになるわよ。”


“それ本当?”


“本当よ。こうしている時間ももったいないでしょ?転移とかができれば瞬時に森に行って、魔物を討伐することが可能になるわ。あなた、黒龍を討伐したいんでしょ?なら、もっと修行しなきゃ!少しは強くなったけど、でも今の力じゃ黒龍には勝てないわよ。”


“わかったよ。空間魔法を教えてよ。”


“このリン様に任せなさい!”



 それから僕は、リンの指導の下で朝まで空間魔法の習得に励んだ。なんとか空間魔法を習得できたが、すでに夜が明け始めていた。



“やっとだよ。”


“でも、凄いじゃない。さすがは私の1番弟子ね。1日で習得するなんて。褒めてあげるわ。”


“ありがとう。でもフラフラだよ。”



 子どもの僕にとって徹夜は辛い。しかも、一晩中魔力を使いっぱなしだ。鏡に映った僕の顔にはしっかりクマができていた。何とか朝食をとって馬車に乗り込んだ。



「アスラちゃん。大丈夫?寝れなかったの?」


「は、はい。」


「なれない旅で疲れたんだろう。それに、あんなに固いベッドじゃ寝れなくても仕方がないな。」


「何言ってるのよ!ウイリアムなんかベッドに寝ころんだ瞬間に寝息立ててたわよ。」


「ハッハッハッ そうか~。よほど疲れてたのかな~?」



 僕は馬車に揺られながら寝てしまったようだ。気が付いたら、お母様の柔らかい膝の上に頭があった。



「アッ、ごめんなさい。寝てしまいました。」


「いいのよ。よほど疲れていたのね。」


「ジャネットの膝枕で寝れるなんて、アスラは幸せ者だぞ!」


「す、すみません。」


「ウイリアム!アスラちゃんはまだ子どもなのよ!いいじゃない!」



 なんかこの2人が本当の父親、母親のように思えた。そして、その日は何もなく次の街カサンドルに到着した。疲れていたので、街も散策せずにそのまま部屋に行った。



“アスラ!情けないわね~!しっかりしなさいよ!”


“だって、頭がふらふらしてたんだもん。仕方ないだろ!”


“多分、魔力欠乏症ね。今はどう?”


“頭のフラフラはよくなったけど、少し体がだるいかな。”


“なら、もう少し休んだ方がいいわね。”


“ねぇ。リン。今、僕の魔力ってどのくらいあるの?”


“そうね~。成人の魔力を10とすると、宮廷魔術師のレベルで100よ。アスラの魔力は1000ぐらいじゃないのかな~。”


“1000?!”


“そうよ。それがどうしたのよ。”


“だって、普通の人達の100倍でしょ!”


“大したことないじゃないわ。考えてみなさい。普通の人達は魔法を使えないでしょ!100倍って言ったってまだまだなのよ。黒龍や昔いた魔王なんかは10000はあるんだから!”


“なら、僕なんかまだまだ黒龍と戦えないじゃないか!”


“そうよ。だから訓練しているんでしょ!”



 考えてみれば僕はまだ9歳だ。魔王や黒龍が何歳かは知らないけど、僕の伸びしろはまだまだあるはずだ。そんなことを考えて自分を納得させた。そしてその日の夜、僕は初めての転移でゴブリンが隠れていた森まで行った。

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