第7話 王都ビザンツに向けて出発
ある日の夜、食後に大事な話があるということで居間に呼ばれた。居間に行くと、お父様とお母様がソファーに座っていた。
「そっちに座ってくれ。アスラ。」
「はい。」
僕が反対側のソファーに腰かけると、お父様が優しい口調で話し始めた。隣ではお母様がニコニコしている。
「お前ももうすぐ10歳だ。この国の貴族は10歳になると、王都にある王立学院に入学するのがしきたりだ。」
僕ももう10歳になる。王立学院に入学する年だ。そうなると、僕はお父様やお母様から離れて一人で王都に行くことになる。物凄く不安だ。すると、僕が不安そうにしているのをお母様が感じ取ったようだ。
「心配しなくてもいいのよ。アスラちゃん。あなた一人を王都に行かせるようなことはしないわ。私達も一緒に王都に行きますから。」
「えっ?!でも、領民達が・・・」
「大丈夫だ。ヨハンを代官としてこの屋敷に住まわせるからな。」
「ヨハンですか?」
「そうよ。ヨハンはウイリアムの側近中の側近なの。それに、私の従弟ですから。」
「そうだったんですね。知らなかったです。」
すると、お父様の顔が曇った。
「領地は問題ないんだが、心配なことがあるんだ。」
「なんですか?」
「王立学院にはこの国の貴族の子ども達が集まるんだ。真面目な者もいれば、心無いものもいるだろうからな。」
恐らくお父様は、僕が平民出身ということでいじめられるのではないかと心配しているのだろう。
「大丈夫です。安心してください。ホフマン家の人間として一生懸命頑張ります。」
「立派よ。アスラちゃん。」
それから1か月ほどして、いよいよ王都へ行く日が来た。当然、執事のハーリーもメイド長のマイヤーもそのほかの使用人達も一緒だ。だが、本人の希望で屋敷に残りたいと申し出た者達だけはおいていく。
「お父様。王都まではどのくらい時間がかかるのですか?」
「そうだな~。3日はかかるだろうな。」
初めていく王都も楽しみだが、王都までの旅も楽しみだ。なにせいろんな街を見学できるのだから。馬車に揺られながら僕は本を読んでいた。すると、お母様が話しかけてきた。
「アスラちゃん。何の本を読んでいるの?」
「はい。黒龍と魔王の本です。」
「あ~。あの有名な伝説の話ね。」
「ジャネット。黒龍と魔王の話は本当だぞ!伝説や作り話なんかじゃないさ。現に、数年前から聖教国では勇者の召喚を行っているらしいからな。」
「そうなの?でも、勇者が召喚されたなんて話聞かないわよ!」
「ああ、そうさ。聖教国では司祭達が何度も召喚を行ったらしいが、一向に反応がないみたいだ。」
「そうでしょうね。やっぱり勇者も魔王も伝説なのよ。アスラちゃんだってそう思うでしょ?」
「でも、お母様。黒龍は実際にいましたよ。」
「そうね~。なんか心配よね。また黒龍が現れたらどうなるのかしらね。」
「ジャネットはアスラのことが心配なんだろ?」
「当然じゃない。」
「大丈夫ですよ。お母様。その時は、僕が黒龍を倒しますから。」
「頼もしいな!アスラ!」
「ダメよ!アスラちゃん。黒龍が現れたら逃げるのよ!絶対に!」
確かにお母様は僕をすごく可愛がってくれる。それだけに、お父様もお母様も絶対に幸せにしないといけないと思った。何よりも2人は僕の命の恩人なのだ。
“アスラ!魔力感知は常に発動しておきなさい!近くに魔物がいるわよ!”
僕はリンに言われて魔力感知を発動した。すると、3㎞先にある森の中に魔物の反応があった。恐らくゴブリンだ。街道を通る人々を襲うつもりなのだろう。
「お父様。いいですか?」
僕が急に本を読むのをやめて話しかけたので、お父様もお母様も驚いた様子だった。
「どうしたの?アスラちゃん。どこか具合でも悪いの?」
「いいえ。この先の森の中にゴブリンが隠れています。兵士達に気を付けるように言ってください。」
「えっ?!」
2人が信じられないという顔をしている。それでも、お父様は兵士達に声をかけた。
「ザック!この先の森にゴブリンがいるらしい。注意しながら進め!」
「ハッ」
すると、僕が言った通り森から20匹ほどのゴブリンが現れた。あらかじめ兵士達が弓を用意していたので、襲ってくるゴブリン達を弓で射抜いた。続いて、兵士達は剣を抜いて逃げるゴブリンを切り裂いていく。その間、馬車な止まったままだ。
「大丈夫かしら?」
「お母様。心配いりませんよ。相手はゴブリンです。」
しばらくして、ザックが報告に来た。
「伯爵様。ゴブリンの盗伐が完了しました。」
「そうか。ご苦労であった。怪我人はいるか?」
「はい。ですが擦り傷程度です。ご安心ください。」
「少し休んだら出発しよう。」
「ハッ」
馬車が動き出すと、お父様が聞いてきた。
「どうしてわかったんだ?アスラ。」
「はい。本を読んでいたら、急に森に隠れているゴブリンのことが浮かんできたんです。」
「そうか。」
お父様は何か考え込んでいる。
「ウイリアム。やっぱりアスラちゃんには、不思議な力があるのかもしれないわね。」
「そのようだな。だが、アスラ。他人の前では目立たないようにしなさい。」
「ウイリアム。どうしてなの?」
「アスラのことが貴族達に知られれば、利用される可能性があるからな。」
「もしかして、貴族派閥の人達のこと?」
「ああ、そうだ。あいつらは何かにつけて、陛下の意見に反対するからな。アスラが何かに利用されても困るだろ。」
「困ったものね~。」
どうやらこの国の貴族達の中には、王を守る派閥とそれに反対する派閥があるようだ。だが、今の僕にはそんなことは関係ない。そして1日目はガレントという街に宿泊することになった。
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