第6話 アスラ、修行を始める!
その日の夜から修業が始まった。まず手始めにおへその辺りにある熱い球を感じ取り、それをできるだけ大きくするのだ。なかなかうまくいかない。熱い球は感じることができたのだが、なかなか大きくはできない。だから寝ているとき以外は常に意識するようにした。結構大変だ。そして半年ほどたったころ、拳ほどの大きさだった熱い球は体全体にまで成長した。
“アスラ!あなた、本当に人間なの?”
“どうして?”
“普通の人間はせいぜいカボチャぐらいの大きさにしか成長しないのよ。なのに、あなたの魔力球は限界がないみたいなんだもん。”
“僕も自分のことが不思議なんだ~。”
“どういうことよ?”
“以前黒龍に襲われたって言ったよね?あの時、僕は心臓を貫かれて死んだはずなんだ。なのにこうして生きているだろ。お父様もお母様も神様のお陰だって言ってたけど、僕にも理由はわからないんだよ。”
“なるほどね。主様がなぜ私をあなたに遣わしたのかわかった気がするわ。”
“ふ~ん。で、どうしてなの?”
“私の責任が重大ってことよ!”
“それじゃあ、答えになってないよ。”
“あんたは知らなくていいのよ。それより、次の訓練を始めるわよ。”
“うん。”
その日から、体の中にある熱いもの、つまり魔力を使って火や水、風、土、電気なんかを指の先に作る練習を始めた。
“アスラ!あなたの見込みがいいわね!”
“そりゃ、僕のお父さんもお母さんも優秀な冒険者だったからね。”
“でも、所詮人族よね。魔法は使えなかったはずよ。”
“でも、精神を集中させることはできたでしょ!”
“そうかもしれないけど、でもまだまだね。そんなチョロチョロした魔法じゃ黒龍どころかゴブリンだって倒せないわよ。”
“これからいっぱい修行するから大丈夫さ。”
“その自信はどこから来るのかしらね。”
そんなこんなで基本的な魔法は何とか使えるようになっていた。だが、カレン先生との県練習では全く歯が立たないでいる。
“ねえ、リン~。”
“何よ?”
“どうすればカレン先生に勝てるようになるかな~?”
“そうね~。アスラはまだ力と速さが足りないのよ。どれに動体視力ね。”
“どうすればいいの?”
“身体強化の魔法を覚えればいいのよ。”
”身体強化?“
“そうよ。例えば早く動きたいときには足に魔力を集中するのよ。力強く剣を振りたいときには腕に魔力を集中すればいいのよ。”
“なら、耳に魔力を集中すれば小さな音が聞こえたり、目に魔力を集中すれば遠くのものを見れたりするの?”
“そうよ。遠くのものを見れるようになるだけじゃないわ。他の人の動きが遅く見えるようになるのよ。”
“それ本当?”
“本当よ。私がアスラに嘘なんか言ったことないでしょ!”
“まあね。”
“試してみなさいよ。”
”うん。“
意外と身体強化は難しい。じっくりと時間を取ればできるのだが、それを咄嗟にやるのは至難の業だ。それから数か月は身体強化を訓練した。その結果、僕の魔力も上昇し、使える魔法の威力が上がって使える魔法の種類も増えた。
“アスラ!もっといろんな魔法を覚えたいでしょ?”
”うん。“
“なら、伯爵様に言って屋敷の裏の草原で練習しなさいよ。あそこなら何もないから安全じゃない。”
“僕が魔法を使えるってばれちゃうじゃないか!”
“あなた馬鹿なの?裏の野原や山に遊びに行くっていえばいいでしょ!”
“そっかー。”
それから魔法の練習は外でするようことにした。
「お母様。」
「どうしたの?アスラちゃん。」
「図書室の本はほとんど読んでしまいましたので、これからは裏の野原や山を探検したいんですけど。」
「そうね~。この辺りには魔物はいないから安心だけど。あんまり遠くに行っちゃだめよ。」
「はい。わかってます。」
「でも、野原や山に行って何をするの?」
「薬草を見て見たり、山にどんな草花があるのか知りたいんです。できれば動物の生態も調べてみたいです。」
「アスラちゃんは勉強家なのね。将来は学者にでもなるつもりなの?」
「いいえ。ただ興味があるだけですから。それに伯爵家の一員として恥ずかしくないように知識を付けたいだけです。
すると、お母様が僕を抱きしめてきた。顔が大きな胸に埋もれて少し苦しい。
「アスラちゃん。あなたなんていい子なの!でも、気を付けていくのよ。」
「はい。」
それから僕は一人で裏の野原や山に行くようになった。そこで魔法の練習だ。音が出ても気づかれないように結界魔法から習得するようにした。そして、魔物がいたら分かるように魔力感知を覚え、火魔法や水魔法、土魔法に雷魔法、さらには光魔法に闇魔法とありとあらゆる魔法を覚えていった。
“やっぱり、アスラは異常よ。”
”何が?“
“こんなに短時間でこれだけの魔法が使えるようになるなんて、エルフ族や魔族でもありえないことよ。”
“そうなの?”
“当たり前じゃない。あなたに魔法を教えてからまだ1年も経ってないのよ。”
“もしかしたら僕は天才なのかもね。”
“アスラは褒めるとすぐに過信するんだから!油断したらダメよ!”
“わかってるよ!”
それからさらに月日が経ち、カレン先生に剣を習い始めてからすでに4年が経った。魔法もかなり使えるようになっている。特に身体強化の魔法は凄く便利だ。素早く動けるようになるだけでなく、力もかなり強くなる。目に魔力を集中すれば、相手の動きがスローモーションのようにゆっくりになるのだ。
「アスラ!お前、だいぶ強くなったな!」
「ありがとうございます。先生。僕も9歳になりましたので。」
「そうか~。アスラもそろそろ王立学院に入学する年か~。私も年を取るわけだな。ハッハッハッ」
「まだまだ先生は若いですよ。それに、すごく綺麗だと思います。」
確かにカレン先生は若くてきれいだ。何よりもお母様と同じでお胸様が立派だ。
「このマセガキが!でも、嬉しいよ。ありがとうな。アスラ。」
「はい。」
正直、リンと訓練を始めてから魔法も剣もかなり上達している。だが、何があってもその実力を人に知られないようにしなければいけない。その理由は図書室の本に書かれていた。
『黒龍が眠りから覚める時、恐ろしき魔王が復活する。』
この世界では定期的に黒龍が現れ、その数年後に魔王が現れている。そして、その都度ナデシア聖教会で異世界から勇者が召喚されているのだ。ひとたび黒龍が現れると、世界は混乱状態に陥り、悪と善の戦いが起きるのだ。つい数年前に2000年ぶりに黒龍が現れた。そうなると、いつ魔王が復活してもおかしくない。そんな時に様々な魔法が使える僕のことが知られたら、魔王に認定されてしまうかもしれないのだ。
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