第2話 黒龍襲来!

 それから数か月が経ったある日の朝、僕の人生を左右する大事件が起きた。村の寄り合いで外に出ていたお父さんが慌てて帰ってきた。



「マーサ!アスラ!お前達は家の中にいろ!」


「どうしたの?お父さん!」


「空の様子が変なんだ!大気が怒りに満ちている証拠だ!何かが起こる前兆かもしれん!」


「何が起こるの?」


「わからん!だが、危険なのは間違いない!とにかく家の中に隠れていろ!」


「わかったよ。お父さん。」


「サム!気を付けてよ!」


「ああ。」



 僕とお母さんはお父さんに言われた通り家の中にいた。お父さんは剣を腰に携えて再び外に出て行った。僕とお母さんは窓から外の様子を見ていた。



「サム!どうも様子が変だ!」


「サジン。何かが起こるぞ!村長に言って、すぐに村人を非難させよう。」


「ああ。それがいいだろうな。」


「戦える男は武器をもって待機するように言ってくれ。俺も村中の家を回ってくる!」


「わかった!」



 サジンおじさんとお父さんが走り出そうとした時、黒い雲の間から降りてくるものが見えた。巨大な魔物らしきものが大きな翼をはためかせている。



「ちょっと待て!サム!あれは黒龍じゃないか?!」


「ああ、間違いない。すぐに村人全員を非難させるぞ!」


「わかった!急ごう!」



 お父さんとサジンおじさんが大きな声で叫びながら村中を走り回った。



「黒龍だー!みんな、森の中に逃げろー!」


「黒龍が来たぞー!早く逃げろー!」



 村人達は慌てて家から飛び出してきた。そして、空を見上げて悲鳴をあげた。



「キャー」


「黒龍だー!」


「逃げろー!」


 

 家々から何も持たずに村人達が飛び出し、みんな一目散に森に逃げ込もうとしている。子どものいる人達は子ども達を抱きかかえながら走っている。だが、そこに黒龍が巨大な炎を吐き出した。



「ギャー」


「熱いよー!」


「誰か助けてー!」


「助けてー!」


「誰かー!」



 逃げようとしていた人々が次々と犠牲になっていく。戦えるものは手に弓を持って黒龍に矢を放つが、硬い黒龍の皮膚に弾き返される。そして黒龍が矢を放った人々の近くに行き、まるで蟻を踏み潰すかのように踏み潰していく。逃げようとする者は鋭い牙と爪で切り裂かれた。まるで地獄絵図だ。



「サム!もう無理だ!子ども達を連れて逃げるぞ!」


「サジン!俺は残る!このまま黒龍を放ってはおけない!妻と子どもを頼む!」


「何を言ってるんだ!どう考えたって無理だ!俺達になんとかできる相手じゃないぞ!」


「俺はどうなっても構わん!アスラとマーサを守るんだ!」


「わかった!サム!死ぬなよ!」


「ああ。」



 お父さんは剣を片手に握って黒龍に向かっていった。剣で黒龍の足に斬りつけるが傷一つつかない。そして、黒龍に蹴られて後ろに大きく飛ばされた。



グホッ



「サム!上だ!逃げろー!」



次の瞬間、黒龍がお父さんを口にくわえた。



グワー



「放せ!放しやがれ!このやろー!」


「サムー!」



お父さんは黒龍の口から逃れようと必死に抵抗している。そして、手に持っている剣で黒龍の右目を突き刺した。



ギャーギャー



黒龍は苦しみもがきながらお父さんをかみ砕いた。



バキッ



「サム——————!!!」



ドサッ



その様子を見ていたサジンおじさんは泣きながら僕達の家に向かって必死に走った。



「ウッワー!サムが・・・サムが・・・・!!!」



サジンおじさんが泣きながら家に入ってきた。



「サジンおじさん。お父さんは?」



「う~、う~、ぐしゅん、す、す、すまん、ぐしゅ」



 サジンおじさんの様子から、僕もお母さんも何があったかすぐに理解できた。お母さんはその場に泣き崩れた。



「そ、そ、そ、そんなー!嘘でしょー!サムー!!!」


「お父さん・・・。黒龍!許さない!絶対に許さない!」



不思議と僕には悲しいという感情はなかった。それよりも、憎いという気持ちでおかしくなりそうだ。僕はサジンおじさんの腰から剣を抜いて黒龍に向かって走り出した。



「おい!アスラ!どこに行くんだ?!」


「お父さんの仇をとるんだ!!!」


「アスラ!アスラ!ダメ———!行っちゃダメ———!」



 サジンおじさんもお母さんも必死に僕を追いかけてくる。外では家がことごとく焼かれ、生き物の焼けたにおいが充満している。生存者は絶望的だった。そして目の前には憎い黒龍がいた。



「バカヤロー!お父さんを返せー!」



僕は剣を持って黒龍に突っ込んでいったが、目の前に黒龍の巨大な爪が見えた瞬間、意識が途絶えた。どれくらい時間が経っただろうか。僕が意識をとりもどすと、すでに黒龍の姿はなかった。周りには無残に崩れた家や燃えて炭になった家の跡が見える。あちこちに人が倒れている。



「お母さん?お母さん?」



 僕はお母さんを探すために起き上がろうとしたが、身体に力が入らない。地面を見ると、僕の周りには血だまりができていた。僕は再び気を失いそうになりながらも大声で叫んだ。



「おかあさ——————ん!!!」



 目から大粒の涙が溢れ、周りの景色が涙で歪んで見えた。少し先に、お母さんの剣と焼け焦げたお母さんの靴が落ちているのが見えた。



「絶対に仇をとってやる!待っていろ!黒龍!お前を見つけて絶対殺してやるからな!」



 僕は心に固く復讐を誓ったのだ。そして、再び意識を失った。

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