聖なるイベント
今日は聖なるクリスマスだ。
実際は一部の者達にとっての地獄になり果てるが、まぁそこは置いておこう。
「レコダイ」の中でも季節限定イベントというのはしっかりと開催されていて、今日も例には漏れない。
「しかし、クリスマスボックス型のモンスターっていうのはどうなんだ? せっかくのプレゼントを破壊しているみたいで罪悪感が出てくるんだけど…」
このモンスターを倒すと限定のコインが出現しそれと専用のアイテムが交換できるという仕組みなのだが……複雑だ。
「まぁまぁ、こういうのは割り切って楽しめばいいんだよ。そらぶっ飛べー!」
リンカは随分テンションが高まっているようで、とても楽しそうに魔法を打ちまくっているが……全く躊躇がないのもいかがなものか。
そしてカイのテンションが上がらないのにも理由はまだある。
「なんでこんな衣装着ないといけないのかね……」
そう。このクリスマスイベントは特定の衣装を着なければモンスターが発生しないのだ。今のカイはトナカイの衣装を身にまとっている。
リンカの方を見れば彼女はサンタクロースのような衣装を着ており、それも彼女が楽しそうな要因の一つだろう。
だがカイはまだいい方だ。少し周囲を見渡してみれば、そこには男のみで結成されたパーティがクリスマス専用の衣装をまといながら死んだような目で狩りを行っている。
リンカという花形がいなければ自分もああなっていたのかと思うと、背筋に寒いものが走っていく。
心の中で自己犠牲も顧みない勇者達に合掌すると、目の前のモンスターに集中する。
イベントモンスターということもありそこまでの強さではないので、順調に討伐数を重ねていきコインも集めていく。
ある程度コインも集まり、交換できるアイテムの一覧を眺めているがなかなかこれだというものは見つからない。
「ステッキ状のキャンディとかクッキーの回復アイテムとかが多いけど、消耗品だとせっかくの思い出が消えちゃうもんね……」
「こういうのはクリスマスの効果を優先してる場合がほとんどだし、あまり効果には期待しない方がいいぞ」
お目当てのアイテムは見つからなかったようで、しばらくうんうんと唸っていたが何かを発見して声を上げた。
「あ! こんなのあったんだ……。せっかくだしこれにしておこうかな!」
「交換できたか。ちなみに何を選んだんだ?」
満足げにアイテムを確認している姿が気になったので聞いてみたが、「秘密!」と言われてしまったため断念した。
(俺の方は……これにしておくか。特に目ぼしいものもないしな)
カイも交換し終え、モンスターの出現数も大分減ってきていたためこれで二人のイベントは終了ということになった。
どこか浮足立つように装飾が施されている街を眺めて歩きながら、この非日常感が漂う街を楽しむ。
「こうやって見ると、見慣れてる場所も何だか新鮮に感じるね~」
「こういうのもたまにはいいよな」
軽く話していると、ふとリンカが思い出したかのように話題を振る。
「そうだ、さっき交換したものだけど教えてあげるね!」
「え、さっきは言ってくれなかったのにいいのか?」
唐突な申し出だったため呆気にとられたが、このくらいはいつものことだ。そう思って待っていると……
「はい、メリークリスマス!カイ!」
…赤の毛糸で編まれたマフラーを手渡された。
「これって……」
「そう。あの時思い出に残りそうなものがなくって探し続けてたらこれがあったんだ! 特別な効果はないけど、それでも形に残したくって…」
特に変哲もないマフラーを渡すことを迷っていたようで、リンカにしては弱気な様子だった。だがカイからしてみれば相棒にそんなことをされて嬉しくないわけがない。
「すっげぇ嬉しいよ! ありがとな、リンカ!」
「ほんと!? よかったぁ~。喜んでくれるか不安だったんだよ」
こんなサプライズがあるとは予想していなかったため、純粋に驚いたがやはりというべきか目的が被ってしまった。
「ええと…リンカ。この後に渡すのも気恥ずかしいんだけど、これ」
「? これって…」
カイが渡したのはこちらも毛糸で編まれた手袋だ。どこかデザインまでマフラーに似たものである。
「俺も何かあげようかと思ってたんだけど…サプライズが被ってるとは思ってなくてさ。……よかったらもらってくれ」
「わぁ…ありがとう! すっごく嬉しい!」
互いに思い出を残し合いたいと思って用意したプレゼント。そこまで考えが一致していたことが無性に面白くて、二人は顔を見合わせて笑い合う。
「こんなことがあるなんてね。…ねぇ、カイ」
「どうした?」
こんな最高な出来事があった時に、余計な言葉はいらないと互いに一言だけ交わした言葉。
「メリークリスマス!」
「あぁ、メリークリスマス」
聖なる夜は、更けていく───
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