『Extra Story』Record of Divergence ~世界の分岐点~

進道 拓真

ギャンブルの嗜み


 サイラスに存在しているカジノ。今日の俺たちはここに来ていた。


「なんでカジノなんだ? もう嫌な未来しか見えないんだが……」


 自身の運のなさを自覚しているカイは、賭け事があまり好きではない。無論勝負事は好んで行っているが、全てが運任せなゲームでは勝ち目が薄いことは目に見えている。


 だが今日に限ってはリンカに引っ張られてやってきていた。彼女が賭け事が好きだということは聞いたことがないので、少々意外でもある。


「ふっふっふ……。別に大した理由でもないけどね。ただ私たちって現実だとそう気軽にギャンブルなんてできないじゃん? だけどこっちなら話は別。そうそう咎められることもないし、軍資金も確保してある。ならやるしかないでしょ!」


 割としょうもない理由だった。要するにただギャンブルというものを経験してみたいだけらしい。


 だがそれ自体は賛成だ。こういう場の雰囲気を一度知っておくのは良い経験になるだろうし、カイ自身興味がないと言えば嘘になる。


「俺の方もやってみたい気持ちはあるし、一回くらいならいいかもな……。けどあんまりのめり込みすぎるなよ? ハマったら最後だからな」

「わかってるって! じゃあ行こう!」


 カイの忠告を軽く受け流しながら向かっていくリンカ。その様子にいざというときにいは俺が止めなければ…と決意を固めながらついていく。


 そこまで遠い距離でもないようで、カジノにはすぐにつくことができた。









「おぉー……なんかゴージャスって感じだねぇ」


 カジノの中は見るからに煌びやかな空間であり、多くの人でにぎわっている。


 そこら中にルーレットやブラックジャックを行っている台が置かれ、スロットマシンなんかも所狭しに並べられている。


 人の希望と羨望に満ち足りた空間というのが率直な感想といったところだ。


「まずどれからやろうか……何か気になるものあった?」

「俺も定番なんて知らないしな…とりあえず今やってるゲームでも観戦していかないか?」


 初心者が安易に始めようとすると痛い目に合いそうだと感じたので、まずはこの場の空気感をつかもうとゲームを見ていく。


 やはりその盛り上がりは異様なもので、稼げたものから失ったものまで反応は千差万別だ。



「なんとなく雰囲気もつかめてきたし、何かやってみるか。どれがいい?」

「そうだなー……あっ、あそこの卓が空いてるよ。行ってみない?」


 見てみれば確かに空いている卓が一つある。その場に近づき、ディーラーに話しかけてみる。


「すまん、ここは何のゲームを行っているんだ?」

「こちらではブラックジャックを行っていますよ。参加なさいますか」


 ブラックジャック。カジノでは定番だろうがどうするか。


「どうする? 一回やってみるか?」

「せっかくだし参加しようかな。お願いします!」

「それでは始めさせてもらいます。ルールの説明はどうなさいますか?」


 一応ルール自体は把握しているので俺は大丈夫だと返答する。リンカの方も知っていたようで、そのままゲームは進んでいく。


「ではチップの方はどうなさいますか? お好きな金額で構いませんよ」

「じゃあ俺の方は…一万ゼルくらいでいいかな」

「私は二万ゼルでいくよ! こういうのは思いきらないとね!」


 チップも賭け終わり、本格的にゲームが始まった。配られたトランプの合計は俺が16、リンカが17、ディーラーが14だ。


「どうするか……このままでもいい気もするけど…ヒットでいこう」

「私もヒットかな。お願いします」


 再び配られたカードは俺にダイヤの7、リンカにハートの4、ディーラーにダイヤの6だった。


「あー、バーストか。負けちまったな」

「おぉ、勝てた! やったよ!」


 21を超えた俺は負けてしまったが、リンカは上手く勝利をつかめたようだ。ただ俺にとっては、この勝利にのめり込んで彼女がハマらないかが一番の不安だ。


「よーし、この調子でじゃんじゃんいこう!」


 その後もゲームは続き、それなりに楽しむことができた。








「最終的にはまぁまぁかな。けど全体ではプラスだったしよかったよ!」

「よかったな。俺はマイナスではあったけど、そこまででかい損失でもないしセーフかな」


 結果としては、リンカもすべてに勝つことはできなかったがプラス。カイは上手く引き際を見極めてマイナスを最小限に抑えていた。


「こういうのもたまにはいいね! ……ねぇ、今度はあれやってみない?」


 リンカが指さしてきたのは、並べられているスロットマシン。見てみればそこもごった返しており、人気があることがうかがえる。


「スロットか……別にいいけど、大丈夫か?」

「へーきだよ! 私、運いいんだから!」


 自身満々に言い放ちスロットへと歩みを進めていくリンカ。この時点で嫌な予感しかしないが黙って付き添っていく。そしてこの予感は当たることとなった。









「うぅ……負けた…」

「だから言ったのに……」


 結果だけを言えば、リンカを惨敗した。そのショックが大きかったのか今は床に項垂れている。


「なんで当たらないんだろ…運は悪くないはずなのに」

「…リンカって完全に運に任せてスロットを回してたけどさ、ある程度予測してやらないとだめなんだよ」


 その言葉を理解しきれていないのか、頭に?を浮かべている。


「要は目押しをしてなかったってことだよ。スロットだと運任せじゃそう上手くはいかないからな。こればかりは動体視力を鍛えてきた俺の方が得意になる」


 その言葉を裏付けるように、先ほどまでは若干のマイナスだったカイの戦績も今ではプラスに傾いている。


「目押しか……なら私じゃ無理だね。ここで引いておこうかな」

「そうしとけ。あんまりにもハマってたりしなければ大丈夫だ」



 その日はここで終わることとした。これ以上やっても泥仕合になるだけだし、カイのおかげで二人で合計すればわずかに稼げているので良い方だ。


「……ねぇ、カイ」

「どうした?」


 どこか落ち着かない様子で話しかけてくる。何かと思い聞くが良い予感がしない。


「あのスロットさ……またやれば今度は当たるんじゃ………ぶへっ!?」


 ふざけたことを抜かす相棒の頭を引っぱたいておいた。気を抜けばいつの間にか突撃しているかもしれないので、しっかりと言い聞かせる必要があるだろう。



 そんなこともありつつ、初めてのギャンブルは幕を閉じた。

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