第4話

「加藤君、加藤君、ちょっと、ちょっと」


突然、同じ職場のおばちゃんに拉致される。


「加藤君、スポーツジムに通い始めたんだって?」


なんて耳の速さだ。


「アイちゃんも一緒に行ってるとか?」


お前は家政婦か!


「良く知ってますね〜」

「でも、たまたまですよ。たまたま」


おばちゃんは、ニヤニヤしながら、


「なんだかんだで、仲いいんじゃない~?」


(「なんだ」と「かんだ」の中身が知りたいわ!)


「ほんと、偶然ですよ」


「いいのよ、隠さなくても。うふっ」


隠すって、何を妄想してるのか、気になるわ!

しかも、リアルに「うふっ」って初めて聞いた。


「いや、ねぇ~」

「この前、佐々木君がでっかい声でね」

「アイちゃんのことを、デカ女だの、痩せれば少しは見られるのになぁ、とかふざけて話してたのよ」

「それを、アイちゃんが聞いちゃって」

「それでジム?ってねー、はっはー」


(いやそれ、全然面白くないし)


「そんなことがあったんですか〜」

「それは嫌ですね~、セクハラですよ~、はっはー」


適当に合わせて、早々に脱出を図る。

この手の人達に関わると、大抵は不要な被害を被る。


さて…問題の佐々木君。


何処の会社にも、必ず一人は居ると思われる、職場のイケメン君。

そして、絵に描いたように、軽〜い。


しかし現実は、世の中見た目がモノを言う。


若い子達には、絶大な人気だ。


(そっかぁ。アイちゃんも、人の子だったかぁ)


(イケメンの一言が、それほどショックだったんだね…)


(まぁ、分からなくも無いよ)

(俺は慣れっこになってるけど…ふっ)


また、朝から自虐。


遠くの席で、佐々木君と永瀬さんが楽しそうに、「キャッキャッ」言いながら話してる。


(いいなぁ…あのポジションには、俺は行けないなぁ…)


そしてまた自虐。



「おはようございます」


真横にアイちゃん。


うわっ!


「お…おはようございます」



「…」


(だから、この沈黙怖いんだって!)


と、心で叫ぶ。



「さ…沢口さん、ジムはどうですか?」


「普通です」


ふむ…次の会話が出てこない…



「話してくればいいんじゃないですか?」


「はい?」


「羨ましそうな顔になってますよ」


「なっ…何を言ってるのか…はっは」


そう言うと、スタスタと視界から消えていく。


(な…何を言ってるんだ!)


(なんてデリカシーの無い女だ!)


(おい!アイ!お前のことだよ!)


と、心で叫ぶ。



しかし…


あの威圧感、欲しいっす…



続く…

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