第3話

翌朝、夢の中で目覚ましが遠くで聴こえる。

その音が徐々に大きくなっていき…


急に現実が襲い掛かる。


やばい!寝坊した!


慌てて起き上がろうとしたが、そのままベッドから転げ落ちる。


あれ?俺の足何処にある?


何とか立ち上がると、ありえない痛みが全身を走り回る。


「ちょ…っと待て…まじか…」


かつて人生の中で、これほどの筋肉痛に見舞われたことがあっただろうか?


そもそも、筋肉が無いから筋肉を付けに行ったのに、筋肉痛ってなんだ?


ここに筋肉あったっけ?と、言う場所まで痛い。


全く自分の身体を制御できない。


(くぅ!怒りに任せて、初日から無茶しすぎた…)


[後悔、先に立たず]


先人の言葉は重い




「あらあら、どうしたの?」


職場に行くと、案の定、皆が心配そうに声を掛けてくる。


まぁ、半笑いなのは仕方ないか。


まるで、重症の痔か、ありえない寝違えを起こしたか、はたまたロボットダンスの練習か?


おおよそ人間っぽい動きが出来ていない。


「加藤君、大丈夫?」


永瀬さん!


例え半笑いであっても、君の優しい声で、今日も俺は頑張れる気がする〜!


男らしい、キリリとした口調で、


「大丈夫です!」


決まった!




「おはようございます」


にやけながら、身体ごと振り返ると、アイちゃんが立っている。


うおっ!


「お…おはようございます」


相変わらず、威圧感たっぷりの凝視。


「無理は体に毒ですよ」


そう言って、スタスタと視界から消える。


せっかく、気持ち良くなってたのに!


そもそも、毒ってなんだよ!


「さ…沢口さん!」


身体全体でクルクル回りながら、彼女を探す。


「何ですか?」


いつの間にか背後を取られている。


(くそっ、いつもながら動きが読めない)


「沢口さんもあの新しいジムに通ってたんですね~」

「毎日、行ってるんですか?」


「いいえ。私は火・木・土の週3回です」


「あぁ、そうなんだぁ」


「…」


(だから、沈黙でこちらを見るのやめてくれ!)


と、心で叫ぶ。


「無理は体に毒ですよ」


(それ、さっきも聞いた!だから毒ってなんだよ!)


と、心で叫ぶ。


気が付くと、また視界から消えているアイちゃん。


動体視力を鍛えれば、アイちゃんの動きが見えるようになるのだろうか?


いや、まずは筋力UPが優先だ!


取り敢えず、彼女のルーティーン情報はゲットした。


俺は月・水・金・日に通うように設定変更だ。


筋肉痛ごときに負けてたまるか!


-目指せ、細マッチョ!-



そう心に決め、天を見上げて、小さくガッツポーズ!


不自由な体のまま、仕事を始める。


続く…


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