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 やはり地下で戦うとなると色々制約があったのだろう。地上に上がったグラディオは剣を振るいアンデッドを召喚すると、それをこちらに差し向けてきた。


「あたしが抑えるわ!」


 クレアが召喚されたアンデッドを狩りに行くと、それを助けるようにアルカも召喚したゴーストをクレアのサポートに就かせた。自立型らしく、ゴーストはクレアの死角からの攻撃を的確に防ぐので、クレアは目の前の敵だけに集中できている。

 その間に、ノエルとアルカは位置を変え、グラディオに攻撃を仕掛けた。

 しかしグラディオが「こちらから」と言ったように今度は防戦一方になる前に攻撃を弾き、隙を狙って反撃に出る。


「貴様ら二人は確かに強い。死神の援護でどんな敵が相手でも一方的に攻撃する。だが、それは技術が通用する相手だけ。そもそもの力が足りていなければ、技があろうと無意味だ」


 グラディオが魔剣に魔力を込めると、刀身は黒く禍々しいオーラを纏った。遠目に見て感じたのは死の気配だ。それに触れただけで、あのオーラ——瘴気にむしばまれ、死んでしまいそうな気配。

 彼がその剣を振るうと、赤黒い魔力の刃が扇状に飛んで行った。


「厄介ですね」


 ノエルはそれを回避しつつ接近し、剣を振り下ろす。しかしそれはあっさり魔剣で防がれ、さらに一瞬で朽ち果て崩れ落ちた。


「なっ、聖属性を付与していてもこれですか⁈」

「ふむ、すでにこれほどか」


 グラディオは不敵な笑みを浮かべ、剣を横に薙ぎ払う。紙一重の所でノエルに聖属性の強化魔術を掛けたおかげで斬られはしなかったが、グラディオの圧倒的なパワーで十数メートル吹き飛ばされた。風魔術で勢いを相殺して衝撃でダメージを受けないようにして、すぐ私も攻撃に転じる。

 詠唱なんてする暇もないので、とにかく無詠唱で魔術を打ち込み続け、攻撃があれば都度障壁で対応する。

 制御が甘く魔力が一気に減ったせいで頭が痛い。鼻血も出てきた。いったいどれほどの魔力が減ったのか、体から何か抜けていくような感覚を覚える。もう杖に体重を掛けて立っているのが精いっぱいだ。それでも、とにかくあらゆる方向から魔術を撃ち込む。


「魔剣の攻撃を完全に防ぐか……。使いこなせずとも聖女は聖女か。脅威という程ではないが……まあ、厄介であることに変わりはない。先に処理しておくに越したことはないな!」


 今度は私にヘイトが向いてしまったらしく、グラディオは私めがけて剣を振るい、漆黒の刃のようなものを飛ばしてきた。

 障壁では突破される気がしたので、私は風魔術で無理やり体を横に吹き飛ばして回避する。強引な回避のせいで、体の露出していた部分が擦れて傷だらけになる。

 体中の痛みと魔力が抜けたことによる体の怠さで立ち上がれない。

 もう。ワンチャンに掛けるしかないか。どうせまともに戦えるほどの体力は残ってないのだから、一撃で仕留めるしかない。

 相性を考えたら、聖属性の魔術でないと魔剣を突破出来ないだろう。


「ルナ! グラディオ、そろそろ、あたしとも戦いなさいッ!」


 アンデッドを殲滅し終えたクレアは、グラディオに向かって跳躍し、位置エネルギーを使って双剣を叩きつけた。隙は大きいが、彼女を守れる程度の余裕は残っていた。

 また魔力を持っていかれたけど、クレアのおかげで大きな隙が出来た。

 彼女が交戦しているうちに、協力な魔術を使う用意をする。

 避けられない速さと、防がれてもねじ伏せられる威力。聖属性でよく生成するわかりやすい剣を生成し、とにかくそこに持ちうる限りの魔力を籠める。質量と速度で無理やり押し切るイメージだ。


 魔力を籠めれば籠めるほど剣は輝きを増す。そして魔力を籠めれば籠めるほど、体中の痛みが増す。体内から無理やり何かが出て行こうとするような感覚だ。これ以上は魔力を——聖属性の魔術を使うなと、体中が忠告してくる。けどそんなの関係ない。

 まだ足りない。グラディオは確実に攻撃を防ぐ。だからもっと。

 今はクレアに加え、ノエルも参加して二人で抑えてくれている。私に向かってきた攻撃は、アルカが防いでくれる。


「ちっ、小賢しい!」


 グラディオはすべてを巻き込むように剣を横に払い、クレアとノエルを吹き飛ばし、さらに漆黒の刃を飛ばした。クレアとノエルに障壁を張れず、二人は吹き飛ばされ、地面に転がる。

 あれは、アルカの魔術じゃ防ぎきれない。


「ルナさん、危ない!」


 最悪攻撃を無理やり耐えようと覚悟したその時、私の周囲に光り輝く結界が展開された。

 障壁に守られたおかげで私は魔力をさらに籠めることが出来、体が壊れるギリギリまで魔力を籠めた剣を、最後の力を振り絞ってグラディオには放った。

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