31
詩音たちが帰って行ったあと、私は一人で冒険者ギルドに向かった。
「おう、吸血鬼の嬢ちゃんじゃねぇか。一人で来るのは珍しいな」
ギルドに併設された酒場のカウンター席に座ると、昼間から飲んでいたおじさんに声を掛けられた。彼の名はグランツ、一応ベテランの冒険者である。最近は貯めた金で王都に家を買い、たまに大きな依頼をこなして一気に金を稼ぐ、という生活をしているらしい。
暇な日は大抵酒を飲んで新人に絡んでいるが、結構面倒見のいいおじさんである。
「ちょっと、情報収集に」
「ほう、用意周到なのはいいことだ。で、何が聞きたい」
「魔族について。村を襲ってる奴の情報でも、王都の近くに出た奴の情報でも」
「なんだ、嬢ちゃんも情報がはえぇじゃねぇか。王都に近くに出たってなぁ、あれだろ? 神殿跡地に現れたって。今んとこ目撃情報はねぇよ。ただ、村の方はある。ありゃ昨日の話だ。王都の近くにあるコルナ村が襲われた。それと跡地の魔族が同じじゃねぇかって、皆言ってるな」
「……何の目的だろ」
「さあな、全くわからねぇ。王都を襲うならともかく、コルナ村なんて王都に近い意外何もねぇのにな」
コルナ村は私も知っている。ゲームでも立ち寄れた村だし、王都でもたまに話を聞く場所だ。けど、近いだけで別に発展しているわけではなく、何も重要なものはない。しいて言うなら、中継地点として少し便利なくらいだ。
となれば、やっぱり襲うことそのものが目的なのだろうか。
「うーん……その、村の状態とかは?」
「一応俺も直接見たが、ありゃたぶん村人は全滅だ。だが、人だけ狙われたのか、家はそこまで壊れてなかったな。大方、人の命だの魂だの、そういうのがいるんだろうよ」
「なるほど……。教えてくれてありがとうございます」
冒険者は常に死と隣り合わせ。そのため難易度の高い依頼の前にはこうして情報を貰うことも珍しくない。そしてその情報はタダだ。だが情報だって本来は金になるものなので、少しいい酒を奢る。そうするのがマナーだと、グランツに会った日に教わった。
「ああそれと、魔族について詳しく知りたいなら、アルカって冒険者に聞くと言い。あいつは魔族専門の冒険者だ。ランクも最高位だぜ」
「アルカが⁉」
確かに冒険者をやっていたとは聞いたけど、まさかそんなレベルが高かったとは。
思わぬところにグラディオ攻略の大きなヒントがあったようなので、私はすぐ屋敷に戻った。
「アルカ、魔族について知ってること教えて!」
屋敷に戻ってすぐ、私はアルカの部屋に突撃した。
「おかえり、ルナちゃん」
「ルナ、戻るのが早かったわね」
「グランツさんがアルカが詳しいって言ってたから、急いで戻ってきた」
「そういうことね。ルナちゃん、これどうぞ」
「これ……資料?」
「うん。って言っても、報告書用じゃなくて、わたしたちが作戦を立てるのに使ったメモだけどね。ノエル先輩から事情を聴いて、引っ張り出してきたの」
資料にぱっと目を通したが、結構わかりやすい。確かにメモ書きという感じで簡潔ではあるけど、要点はなんとなくわかった。
「グラディオの事だけど、あれは私たちが倒せなかった最後の魔族なの」
「何人かいたの?」
「うん。ルナちゃんを入れてもわたしが見た魔族は五人。うち二人は倒して、一人は捕縛して今は牢屋の中。で、勝てなかったのがグラディオ」
「そんなに強いんだ?」
「ええ。グラディオは魔族である以上に、そもそもの戦闘能力が高いのよ。こっちがどれだけ本気で戦っても、様子見でいなされる。そして戦い方が分かれば、それに合わせた戦い方に変えてくる。だから、決定打を与えられないのよ」
聞くところによると、二人は二度グラディオと戦ったらしい。
一度目は長期戦に持ち込まれ、敗北を確信したため撤退。二度目はアルカが奇襲に成功したものの、圧倒的な治癒能力と回復魔法ですぐ回復され、力を増した魔剣の攻撃に対抗できず撤退。二度目の戦いに関しては、そもそも二人の戦い方がバレていたせいで、初めから連携に対策されていたらしい。
「あの敵に合わせた戦い方はもちろんだけど、何よりあの魔剣が厄介よ。アレに対抗するなら、それこそ勇者か聖女の力が必須ね」
「それなら得意分野だよ。使ったら疲れるけど、攻撃も防御も任せて」
「それならルナにはサポート役に徹してほしいけど、あたしたちの戦闘スタイルはとっくにバレてるのよね……」
「なら、ノエル先輩に攻撃役を任せる? 武器も申し分ないと思うし」
「そうね。武器は……ルナがいるから大丈夫よね。よし、それじゃあ、作戦立てて訓練するわよ! 特にルナ、あんたは今日から訓練漬けよ」
それから私たちは、ノエルも交えて作戦を立て、実戦に向けての訓練を始めた。
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