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 セレネと森に出かけた日から、私は護衛にノエルを連れて、街の外に出るようになった。もちろん、危険なので戦闘時の実用性を重視した服と武器を身に付けている。

 接近戦に持ち込まれれば槍斧、そして変形で鎌としても扱える特殊なかっこいい魔杖に、動きやすいノースリーブのブラウスにミニスカート、そして冷却、対魔力、対物理の魔法が付与された白い金糸の刺繍がされたローブ。完全に魔術師の格好だ。ちなみに、ローブに付いているフードは猫耳ローブだ。実用性はもちろん、デザインも可愛らしいもので、私は結構気に入っている。


 ノエルもデザインと実用性を兼ね備えた格好に武器を持つという、まさにファンタジー世界の美少女と言った感じ。

 普段はクラシカルなメイド服だが、外出時はまさに姫騎士と言った格好で、かっこよくも美しい。腰に下げた剣と、スカートがふわりと揺れた時に見えるガーターリングとそこに付いた短剣がまた雰囲気を出している。それでいて、ノエルの健康的なふとももを際立たせていてとてもエッチだ。

 ノエルってすごい健康的な体してるから、ついつい見ちゃうんだよね。首筋とか太腿とか。


「……ご主人様、その、とてもいやらしい視線を感じるのですが」

「あっ、ごめん。その、ノエルのその姿、何度見てもいいなーって思って」

「にしては視線の向く場所が下に集中しすぎている気がするのですが」

「太腿が、その、エッチだなーって」

「またですか。夜ならともかく朝から、それもダンジョンに行く前から発情しないでくださいね」

「発情って言うな! 別にそんな、ノエルの太腿見て興奮してるわけじゃないもん」


 それに、夜ならともかくって、夜だって私はノエルの血をたまに吸うだけで、そんな襲ったりはしていない。何ならあの巨乳を揉むのだって我慢してるんだから。


「私知ってますよ、ご主人様が血を吸った後——」

「あーバカバカうるさい聞こえなーい」


 そんな気の抜ける、恥ずかしい会話をしながら、私はノエルと一緒にダンジョンに向けて歩いた。



「ここがダンジョン!」


 王都の東門を出て一時間近く歩いたところで、私たちはダンジョンにたどり着いた。

 外から見ると神殿跡のような場所なのだが、ダンジョンになっているのはここの地下だ。

 ちなみに、ダンジョンというのは濃い魔力の影響で魔物が住み着くようになった場所のことである。そしてもう一つ、ダンジョンは魔力の影響で空間が歪んでいるため、内部は見た目より広い。そんな現象が起こる程の魔力を内包しているので、中にいる魔物も強力だ。


 その分、魔物からとれる素材も上質なものがあるため、実力のある冒険者が訪れては魔物をある程度狩り、そして素材を売って生計を立てている。

 ただ、危険な場所であるので、冒険者ギルドに登録して一定のランクになるか、国から直接許可を貰わないと入れない。


 私も一応冒険者登録はしているものの、散歩ついでの薬草採取しかしていないので、ランクは最低の銅等級だ。なので入れるダンジョンは安全な魔物しかいない場所のみ。そこがこの神殿跡地だ。ゲームでは出てくる敵が盗賊ばかりという、ダンジョンとしては限りなく安全な場所である。


 しかし、それでも初めてのダンジョンに、私は胸を躍らせていた。


 これは冒険なのだ。さほど危険ではない、お散歩レベルのものだけど。それでも、活動範囲が王都の城壁内と近隣の森ばかりだった私には新鮮だ。

 ダンジョンの構造はゲームである程度頭に入れているので、中で迷子になる事はないだろう。まあ、ゲームと違ったら何もできなくなるけど。


「さて、入るよノエル! なんか面白いものあるかなー」

「まあ、運が良ければ珍しい魔物は見られるかもしれませんね」

「珍しい魔物?」

「はい。双頭の蛇や二本角のホーンラビットなんかは、会えたら幸せになれると言われています。会えるといいですね」

「へぇ~。会ったらギャンブルでもしようかな」

「だめですよ?」


 いつになく真面目なトーンで言われた。はい、やりません。



 神殿に入り、崩れて露わになった地下への通路を通ると、ゲームで見慣れた景色が広がっていた。


「おぉ、ここが……!」


 ダンジョンの中は、ゲームで見たのと同じように、神殿と言った雰囲気だった。

 所々崩れているが、確かに昔は神聖な場所であったのが分かる。

 そして、満ち溢れている濃い魔力は、私でも感じ取れた。慣れていないからか、少し変な感じがする。妙な気持ち悪さというか……。


「では、魔力を帯びた月見草を探しましょうか」

「だね。うぅ、さっさと見つけてここ出たいよぉ……」

「ご主人様が入りたいと言ったのに?」

「なんか、魔力のせいかしんないけど、変な感じするんだよね」

「そうですか? やはり、ご主人様が魔族だから敏感なのでしょうか」

「あぁ、そうなのかも。とにかく、早めに終わらせよ」


 私がこのダンジョンに来た一番の目的は散歩である。そしてもう一つは、魔力を帯びた月見草の採取依頼のため。

 家で剣や魔術の練習をして、この世界の事を学ぶのも楽しいが、そろそろ金を稼ごうと、最近はこうして散歩ついでに依頼もこなしている。


 本当は聖騎士とかギルドの受付嬢とか、稼ぎの良さそうな仕事をしたいけど、その辺の仕事は学院を経由するか、コネが必要だ。

 聖騎士ならコネで就職できそうではあるけど、まだ実力が足りないので、力を付けるためにもこうしてちまちました依頼をこなしている。

 私はノエルを先頭に、遺跡の奥の方に進んでいく。


 ここに出る魔物は全く攻撃してこないので安全だが、地上の魔物とは違い強い魔力を保有しているので、そこから気配を探る訓練にはなかなかちょうどいい。


「……突き当り、右にホーンラビットとフロストウルフが一匹ずつ、あの岩の裏は……普通の蛇がいる」


 十分くらい探索しただけだが、このダンジョンでよくみられる魔物の魔力の気配は分かってきた。意識して探ると、意外と魔力の気配だけで魔物の種類くらいは分かるようになるものだ。


「もう覚えたのですね」

「うん。ちゃんと感じ取ってみたら、意外と違いが分かるもんだね」

「やはり魔力には敏感なのですね。ちなみに、人もわかるものなのですか?」

「うーん、それはまだいまいちわかんない。けど、なんとなくだけど気配は薄っすらわかるよ。……あれが魔力なのかな」


 人間はそれぞれ違った波長の気配を放っている。それを感じ取れるかどうかも人それぞれなのだが、ノエルやリリやアリサ、最近だとクレアやアルカは分かりやすい。あの気配がきっと魔力だったのだろう。


「恐らくそうですね。魔力による気配察知を鍛えれば、目を瞑って戦えるようになるそうですよ」

「なにそれかっこよ! そういうのも訓練しようかなー」

「いいと思いますよ。あれが使えれば、戦いやすくもなると思いますし」

「戦いやすくねぇ……」


 正直、戦う気はあまりない。もちろん必要とあらば戦うつもりだが、それは私が命の危機を感じたらの話。そうでないなら、極力平穏に生きたい。怖い思いをするのなんて御免だ。


「まぁ、頑張るよ」


 別に戦う気はないけど、習得だけしておこう。

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