21
エルセム王国王都にある王宮。その玉座の間に、王国の最高戦力である者たちが集められていた。
——聖女アリサ
——聖騎士団長セシリア・オルヴィス
——王国騎士団団長エルド・グレイスロック
——近衛兵団長ニオ・クレオール
——元王国騎士団遊撃隊隊長クレア
——白金等級冒険者アルカ・ディアローネ
——英雄セレネ(のぬいぐるみ)
全員が一人で戦況を左右するほどの戦力となりうる存在であり、王国にとっては絶対に囲っておきたい存在だ。
しかし、アリサは聖女、セシリアは聖騎士という立場故に教会所属という面が強く、近衛兵団長は国というより、第二王女の命を最優先としている。アルカとクレアは一人で軍に匹敵するものの、互いを優先するのでそもそもいつの間にか独立していた。しかも、今では個人の——それも魔族が住む屋敷の守衛と、扱いづらい者がほとんどだ。セレネに至っては、予定があるからとぬいぐるみを寄越してどこかへ行っている。
もはや国王にとってまともなのは、エルドだけである。扱いづらいこともあって、普段は絶対に呼び出さない面子だ。
それでもこうして招集したのは、王国がそうせざるを得ない状況になってしまったからである。
「——情報はある程度共有されているのだな」
集まった者たちの話をまとめ、国王はそう言う。
話の内容は魔族についてだ。先日魔族の手の者が同じ魔族の住む屋敷に侵入した事件や、多発している村々の壊滅事件。そして、王国各地の遺跡や廃墟での目撃情報。そして、魔族と交戦し負傷したとの報告。
「であれば話は早い。これは戦争になるやもしれん事態だ。しかし、我々では対処できぬ」
魔族に関する事件に対して、王国は手を焼いていた。
襲撃されるのは要地でも何でもない村ばかりで、襲撃順にも規則性が全くない。それに加えダンジョンの活性化により狂暴化し、外部に出てきてしまった魔物の事もあり、襲撃事件にあまり戦力を割けないのだ。
単独で魔族を倒した実績のあるクレア、アルカ、セシリアに討伐させようにも、今回はそんな彼女たちですら手に余る、強大な魔族なのだ。
それに加えて対処の優先度を上げて戦力を割くほどの被害自体は出ていないという、微妙な案件。
放置しても今のところ問題はないが、そのうち何かあるかもしれない。なので単独でどうにかしてもらおうにも——そうするには相手が強すぎる。
「はあ、本当に面倒な話だ。戦力を割いたところで、我々の手に負える相手ですらないらしい」
国王は頬杖をつき、面倒くさそうに言う。
「そこで、伝説に倣い勇者を召喚しようと思うのだ。勇者の力を以てすれば、対処も容易であろう。なあ、アルカよ?」
「聖剣の力があれば、少なくとも私たちが動くより確実かと。冒険者として動かせば、騎士より少ない制約で動かせるでしょうし」
この世界の魔物との戦闘にさえ慣れてもらえれば、相当な戦力となるだろう。そうすれば、騎士よりも少ない制約で調査することが出来る。
「ふむ、そうだな。では冒険者を導く役割は、アルカに——いや、どうせ嫌だと言うのだろうな。セレネがいればよかったのだがなぁ……」
「あ、あの、国王陛下。私が、勇者様をお導きしたいです。きっと、私の力もお役に立つと思うので……。それに、セレネさんも……説得してみます!」
「それはありがたい申し出だが——」
「私も聖女として人々を守れるよう日々鍛錬しています!」
アリサは輝いた目で、国王に進言する。その輝く瞳に国王はやられ「わかった、任せよう」と頭を抱えながら言ってしまった。
「はぁ。まあ、セレネに任せるとしよう。それに、勇者が来れば、すべて解決する話だ」
国王は不敵な笑みを浮かべると、「呼べ」と命じる。
すると玉座の間にいた宮廷魔術師が魔法陣の構築と詠唱を初めた。王国に伝わる強制召喚の禁術だ。
魔法陣、詠唱、触媒、それらを用いてさらに高位の現象を再現する魔法。それによって、勇者の素質を持った者を呼び出す。
ただ、その代償は大きい。
魔法陣が光り、詠唱が終わるとほぼ同時に、宮廷魔術師たちは全員魂を抜かれたように崩れ落ち、そのまま動かなくなった。そして、魔法陣の中央には勇者となる者が現れた。
「おぉ、そなたが勇者か」
さらりとした黒髪をツインテールにまとめ、服はフリルやリボンがあしらわれたガーリーな服。顔立ちからして年は十五あたりだろうか。
顔立ちは整っており大人しい印象を受ける。それに背もさほど高くないので、一見派手な格好をした少女でしかないが、その場にいる全員が、確かに彼女は圧倒的な力を持っているのだとすぐに理解した。
「え、えっと……?」
少女は美しく、そして不安げな声で呟く。そんな少女にアリサは近づき、
「勇者様。どうか私たちと一緒にこの国を救ってください」
率直にそう告げた。しかし、当然突然見知らぬ場所に呼ばれた少女が首を縦に振るわけがなく、
「どういうこと?」と首をかしげる。
しかし、少し考えて「あぁ、そういうこと。いいよ」と無気力そうに呟く。
勇者が力を貸してくれる。それは嬉しいことであるはずなのだが、本当に大丈夫なのか、アリサは不安になった。彼女が弱く見えるわけではない。きっと戦ってくれるのだろう。しかし、どこか脆く、崩れかけているように見える。
「おぉ、協力してくれるか、勇者よ! して、そなた名を何と言う?」
「癒月詩音、です。えっと……詩音が名前です」
「そうか。では勇者シオンよ、そなたに聖剣を授けよう。どうか、この国を救ってくれ」
「聖剣……戦えばいいんですか?」
「そ、そうだ。話が早いな。今我が国は狂暴化した魔物や魔族の危機に晒されておる。シオンには、それらの原因を調査し、解決してほしいのだ」
「……わかりました」
召喚された少女、詩音はもはや何の疑問も抱くことなく、国王に言われたことを承諾した。
さっそく、詩音はメイドが運んできた豪勢な剣を手に取る。
華奢な体躯に会わない剣だが、詩音はそれを軽々片手で持つと、試しに軽く振るってみた。
「おぉ……すごい、重みが……」
少しだけ、詩音は楽しそうな表情を浮かべる。
そしてそれを見る国王も、静かに笑みを浮かべていたのだった。
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