13
「ノエル、今日はどこかに出かける用事とかあるの?」
風呂上り、私は外出用の服に着替えて、ノエルの部屋に行った。
ノエルは魔術を駆使して効率よく仕事を終わらせるので、自由時間が多いのだ。なので、よく部屋で何かしている。今日は、本を読んでいるようだった。
「ご主人様。いえ、特にはありませんよ」
「じゃあ、奴隷紋の事も気になるし、教会でその辺調べるの、付き合ってもらってもいい?」
奴隷紋は魔術ではなく、魔法で刻む。詳しいことは分からないけど、呪いに近いものらしい。教会であればそういうものに詳しいので、ヒントくらいは得られるはずだ。
「わかりました。いつ出発いたしますか?」
「ノエルが良ければ今から行きたい」
「わかりました。ではすぐに支度しますね」
「うん。私もちょっと準備するから、終わったら部屋来て」
私は準備をしに部屋に戻る。私はただ財布などの荷物を用意するだけなのですぐだ。外出するときは基本ショルダーバッグに財布を入れて、日傘を持つだけ。
財布もショルダーバッグも少し前に一目ぼれして買ったものだ。割と現代的なデザインなのだが、この世界の通貨は貨幣なので、あまり沢山は入らない。ショルダーバッグも、中に入れられる小物が少ないので、完全にファッションアイテムだ。
けど、可愛いからよし。
「ご主人様、お待たせしました」
「んー。じゃあ行こうか」
ノエルも準備を終えたようなので、私は彼女と王都の教会に向かう。向かうはよく行くアリサのいる教会だ。
あそこは魔族と戦って呪いを受けた冒険者が立ち寄ることもあるらしいので、奴隷紋の事についてもある程度わかるだろう。
奴隷商の店に行かないのは、あの店の雰囲気がどうも苦手だからだ。言葉通りもののように、ということはなかったけど、首と足に枷をはめられ、檻に入れられている人間を見るのは忍びない。まあ、私はそこで買い物をしたわけだけど。
ともかく、苦手なものは苦手なので、教会のほうを選んだのだ。それに、アリサもいるし。
教会に着いた私は、建物には入らず、庭のほうに足を運んだ。
おそらく私の知りたいことを知っているであろうアリサは、相変わらず東屋で紅茶を飲みながら本を読んでいる。呼び出されたらすぐ行くが、基本あそこでゆっくりしているし、たまに昼寝しているので、サボりだろう。
今日もアリサは——いた。なんなら寝てる。
聖女らしく修道服を身にまとい、綺麗な金色の髪もしっかり結っているが、机に突っ伏して寝ている姿はどこにでもいる普通の女の子だ。
私はそ~っと近づいて、彼女の頬をつつく。
「アリサ、起きてー」
「んへっ、な、なんでしょう!」
アリサは何とも情けない声を出して、ばっと体を起こした。
「はっ、ルナさん。こんにちは。何かご用ですか?」
「うん。ちょっとこのお姉さんの事で相談があるの」
「相談ですか。どういった内容ですか?」
アリサはぱっと聖女モードに切り替え、話を聞く姿勢になった。
私は彼女に酔ってやらかした事を除いて、事情を説明する。
「なるほど。まず、奴隷契約は隷属の呪印を刻む高位の魔法なので、基本解呪は難しいです」
アリサのこの話については、奴隷を買った時に一応説明を受けている話だ。
「もし解呪系の魔法が使われたのでなければ、おそらく隷属の魔法より上位の同系統の魔法が使われたのでしょう。それが、吸血鬼固有の能力である眷属化です」
「眷属化?」
「はい。血を吸った者を自らの眷属とする強力な能力です。効果は眷属に力の一部を与える事です。一番影響がありそうなのは不老ですね。あとは魔力も増えるみたいです。ただ、本来血を吸うだけで成り立つものではないので、これ以上の事は何も……」
「魔力はともかく、不老って……それもう呪いじゃん。解除ってできるの?」
「……ごめんなさい、流石に難しいかと。魔術や魔法とはまた違う契約のようなものですから」
「そっか……。ノエル、勝手に不老にしちゃってごめん。その、出来る範囲で責任は取るから」
「責任なんて、そんな——いえ、では最期までメイドとして傍においてください。どのみち行く当てのない身ですから」
「……わかった。じゃあ、ずっと私の面倒見てね」
「はい、お任せください」
私たちは熱い視線を交わす。なんだろう、今のちょっとプロポーズみたいだったな。セリフ間違えてた気がする。
ともあれ、ある意味解決したと言えば解決したし、そんなの些細な事だ。
「解決……で、いいのでしょうか」
「そうだね。ありがとうアリサ。それにしても、詳しいんだね」
「ええ。その、魔族とのいざこざがあったみたいで、念のため魔族についても勉強しておけと言われて……」
街の人たちは私に敵意どころか差別意識すら向けてこないけど、外では違うのだろうか。どちらが原因かはわからないけど、私まで巻き込まれなかったらいいけど……。
「ところでそれ、話しちゃって大丈夫なの?」
「あっ、あぁ~、まあ、ルナさんも当事者と言えないことはですから」
アリサは「あはは」と誤魔化すように笑う。この反応は漏らしちゃダメな情報だったのだろう。
「ノエル、今の話は漏らさないようにね」
「はい。きれいさっぱり忘れておきます」
「あはは、ありがとうございます」
奴隷紋が消えた件は一応解決ということでいいだろう。しかし、不安な情報が舞い込んできて、悩みの種が一つ増えてしまった。しかも、それが大きすぎる。
今のところ街では受け入れられているし、敵視されることもないから大丈夫だとは思うけど、国として魔族と戦うとなるとわからない。前世でも個人を知らなければその人の印象特定の国籍でひっくるめてみる、なんて珍しい話でもなかった。そもそも、判断基準がそれしかないのだが。
「あぁ、やっぱり不安ですよね。本当にごめんなさい、変な事言っちゃって」
私が不安そうな顔でもしていたのか、アリサはそう言って励ましてくれた。
「もし何かあれば私は全力でルナさんの味方をするので、安心してくださいね!」
「私も、ご主人様の味方ですよ」
「二人とも……ありがとう」
まあ、今はこの二人やよく買い物に行く店の人がいるし、きっと大丈夫だろう。
そう楽観的に考えて、私はアリサに礼を言って教会を後にした。
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